小説
松本隆 みんな、かき回しちゃうんだ、自分のことを。そうすると汚れから何から全部出ちゃう。だから一回放っとくわけ。例えば恋愛してさ、ぐじゃぐじゃになって、それ書いたら面白いわけ。だけどそうじゃなくて一回放置して、半年ぐらいしてから見ると、汚い…
冬には雪にとざされて往き来はとうてい出来ず、夏でも歩いていくとなると普通の人にとってはたいへんな遠征となりかねないような場所に、きわめて個人主義的な理由によって悠々と住んでいる人たちが、アメリカにはたくさんいる。あの広い国のなかには、その…
片岡義男『個人的な雑誌 1』。個人的な、というのは「片岡義男による雑誌的なもの」の意でもあるし、個人的なチョイスということでもあろう。もしかすると読者とは距離があるかもしれないもの。 話は、植草甚一の思い出から。 「はじめて接する本の品定めを…
中沢新一『虎山に入る』。書影は、チベットの絨毯の図柄。内容はあっちこっちに書かれたものや、講演、インタビュー記事。 「悪」や「ノイズ」を肯定する。それも外界のことではなくて、内側のこととして。「人間の心の中には、もともとノイズが立ち上がって…
「片岡義男 全著作電子化計画」というのがあって、一編ずつ買うことができる。おなじ価格だがながいのもみじかいのもある。紙の文庫だと『スターダスト・ハイウエイ (角川文庫 緑 371-2)』に。「森から出てこなかった男」。 SFのような短編だ。現代に生きる…
『森の聖者 自然保護の父ジョン・ミューア (ヤマケイ文庫)』のあとがきで加藤則芳はジョン・ミューアと片岡義男のことを書いている。 〈ジョン・ミューアは、ヨセミテ渓谷に五年にわたって住みつき、広大なシエラネバダの山々をくまなく放浪した男である。私…
山と渓谷社、加藤則芳『森の聖者 自然保護の父ジョン・ミューア (ヤマケイ文庫)』。 ジョン・ミューアの伝記。日本ではなじみがうすいからどの出来事も等しくあつかっている。少年時代、青年期、壮年、といった具合にどこまでも。 神秘主義者ではなかった。…
中沢新一と小澤實の対談集『俳句の海に潜る』、ふたりともたのしそうだ。 ふたりを結びつけたのは細見綾子の〈そら豆はまことに青き味したり〉。歳時記では解説されることのない蚕豆(そらまめ)のもつエロティックな象徴性、俳句なるもののつよさ。 中沢 俳…
読者として、短歌にかたむく時期があったり、俳句にもどってきたり。 神秘とか、そとのせかいをながめているとふしぎと俳句がほしくなる。 そういうときにもとめるのは、口語や自己憐憫ではない。 外(と)にも出(で)よ触るるばかりに春の月 中村汀女 角川…
水木しげる『神秘家列伝』の「駿府の安鶴」は参考文献に石川淳の『諸国畸人伝』。 石川淳の描きだす駿府の安鶴は、江戸にあこがれるやんちゃな若者というかんじ。
なにが夢でどこで実現とするかはむずかしいところだけれど、音楽やってる友人が夢だかモチベーションだかを喪失して故郷に帰ると言う。バンド仲間への不満のようだ。あたらしい仲間をさがす気力が……。 故郷に帰ることはない。都会は退却するためにあるのでは…
書肆侃侃房『KanKanPress ほんのひとさじ vol.1』。特集「旅じたく」。 いまいるばしょがいやで家出のような旅にでる。旅立つまえの怕い支度。もてるものぜんぶのような、ごくわずかな荷物のような。 漂泊がはじまればユーモアも生まれるかもしれない。けれ…
えっ、えっ、とびっくりしたり呆れたりして日々が過ぎ、 やがてその驚きの暮らしの中にいつの間にかとけ込んでいくのである。 青目海『ポルトガル物語 漁師町の春夏秋冬 (KanKanTrip Life 1)』。 ところ変われば感覚がちがってくる。 アルガルベには、ひとっ…
書肆侃侃房の小冊子『ほんのひとさじ』。『KanKanPress ほんのひとさじ vol.6』から読む。歌人によるエッセイやショートショート。もちろん短歌も。特集「つぶやき」。 眠るとき君の名前を呟けば夜の空気が動いてしまう 鈴木晴香 つぶやきがささやきになり、…
中村朝子訳、インゲボルク・バッハマン『インゲボルク・バッハマン全詩集』。訳者のあとがき、解説がありがたい。バッハマンへのインタヴューがいくつか引かれており「グリルパルツァーやホーフマンスタール、リルケ、ローベルト・ムージルといった詩人は、…
上籠鈍牛先生のところで本を知る。「墨場必携」。そこにあったのは『五体墨場必携(上) 篆・隷・行・草 五体墨場必携 篆・隷・行・草』でないけれど、Kindleで買うばあいこれ。 二字、三字、四字、五字、六字、七字。楷書・行書・草書・隷書・篆書にて。 辞…
林家ぼたん、上籠鈍牛のコラボセミナー行く。落語一席、書道実演、話し方講座、対談とぎっしりのプログラム2時間。 林家ぼたんの高座は「一目上がり」。書家に合わせた佳い噺。画や詩を褒めるがうまくいかないという。落語初心者へのマクラも上手い。 書家、…
ぼくたちは、子どものころにきいていたNHKの「みんなのうた」を目指していてさ、楽しくて明るくて、文字どおりみんながうたえる歌を作ろうって、話してたね。「上を向いて歩こう」の永六輔と中村大八、映画「メリー・ポピンズ」のシャーマン兄弟、「サウンド…
あるひとの死がじわじわとおおきくなる。ひびいてくる。そういうときは、時間軸から解かれているのだ。そのひとも、じぶんも。 忌野清志郎『サイクリング・ブルース』(『旅する清志郎。』の内容もよく似ているとか)。 いくら頑張っても、世間の評価とかは…
安部 私なんかの体験ですと、一番自分のプロセスがわかるのは芝居なんです。観客が直接的だからでしょうね。それを見ますと、だいたいテーマを思いついてそれがものになるのに二年かかる。最初はなんというかな、読者としてある現実を見るんですよ。まだ読ん…
20代のノンケとテレビ番組『ビートたけしの私が嫉妬したスゴい人』観てた。美輪明宏が紹介しようとしている人気作家を「黒柳徹子だ」と言う。なるほど……。現代らしい正しい推察ではある。答えはもちろん「言うまでもなく」三島由紀夫だ。 亀梨和也が自転車メ…
〈始まり(ビギニング)というものは、起源(オリジン)とは異なったものである。起源がつねに後から顧みられた眼差しのもとに成立する、正統的に必然的なものであるとすれば、始まりは逆に、いかなる根拠付けにも保証されず、なにかの偶然によってそこで始…
高橋和夫訳、エマヌエル・スウェーデンボルグ『霊界日記 (角川文庫ソフィア)』 、たま出版から刊行されたものが1998年に増補・改訂されて角川文庫に入る。 高橋和夫によりボルヘスのことばが紹介されている。日本の90年代。ポストモダン的な横断、寛容があっ…
〈25歳で原宿に6%DOKIDOKIをオープンして、気がつけば15年も経っていた〉 増田セバスチャンの自伝(的)(小説作品)『家系図カッター (角川文庫)』。語られるのは2011年まで。そのあと、東日本にはおおきな地震が来る。 妾の子である母とか、新興宗教にハマ…
渡辺淳一『遠き落日(上) (講談社文庫)』。映画は、1992年。新藤兼人監督による母子愛もので、暴露本的な原作(1979年)とはちがった匂いのようだけれども。 『遠き落日』は野口英世伝。「私」が取材にメキシコのメリダを訪れるところからはじまる。モダンな…
〈「秘密の時間」は秘密の内に処理されなければならない。一日二十四時間しかないところに、こっそり「秘密の時間」を設定してしまうのだから、一日が短くなる〉 橋本治『失楽園の向こう側 (小学館文庫)』。 子供の世界観は、性欲抜きにして完成している。し…
体験ルポ やってみたら、こうだった (宝島SUGOI文庫)" title="体験ルポ やってみたら、こうだった (宝島SUGOI文庫)" class="asin"> 編 (宝島SUGOI文庫 A も 1-2)" title="やってみたら、こうだった 編 (宝島SUGOI文庫 A も 1-2)" class="asin"> 本橋信宏『体…
わたしは 雪となって 枝々からぶら下がる 谷の春のなかへと、 冷たい泉となって わたしは 風のなかを流れる、 濡れて わたしは 花たちのなかに落ちる 一滴となって、 そのまわりで 花たちは腐る 沼地のまわりのように。 わたしは 絶えず・死ぬことを・考える…
〈'88年から「ホットドッグ・プレス」に二年間連載されたものを、'90年9月に単行本として編集した。'97年、それをさらに文庫用に編み直したのが本書である〉 いとうせいこう『ワールドアトラス (幻冬舎文庫)』。みんなだいすき悪魔の辞典というやつ。ルナー…
村岡花子訳、パール・バック『母の肖像 (新潮文庫)』。 町じゅうの少年少女が砂糖天幕(シュガー・キャンプ)に集って、砂糖楓(メープル・シュガー)の汁をかき廻し、薪を添えて火を盛んに燃やす。大抵は雪がつもっているから、シロップが出来あがるまでの…