書籍
大きい呉服店はデパートになり、そのうち駐車場が不可欠のものとなった。都電のチンチン電車が姿を消し、歩行者天国が案出され、日本橋界隈はますます美々しい商店街となった。 安野光雅『黄金街道』。巻頭、古今亭志ん生の「黄金餅」が収められ、安野光雅の…
私の住む町で耳にできる楽器と言えば、三味線、琴、尺八程度だが、山の手の住宅街を歩いていて初めてピアノの音をきいた時には、思わず立ちつくした。 吉村昭のエッセイ『東京の下町』(絵・永田力)。幼年期の不安と感激がやわらかなままのこっている。その…
【小松】都は富がある場所というふうに農村から見られているし、男をあげる場所、都市というのはだめな人間でも変身できる場所であるとも見られている。 1984年、朝日出版社のレクチャー・ブック・シリーズの一冊として刊行された『他界をワープする――民俗社…
唐十郎『唐版 滝の白糸 他二篇』。収められているのは表題作と、「由比正雪」「ガラスの少尉」。 銀メガネ あたしは異化の旅を恐れ気もなく志していたのかもしれない。袋小路に追いつめた者達が、その風情を異口同音にののしった時、あたしは異化のほうきに…
自然はまぎれもなく生きてうごいているから、その中から何かを発見するよろこびも、またかぎりがないんですね。それだから、一年はアッという間。しかも精神的にひじょうに充実した一年を過ごすことができて、五年と言い十年と言っても、けっして永い歳月と…
〈霊魂について語るといっても、もちろん宗教にかかわるわけではなく、また、哲学的な問題に立入るわけでもない。ここで話題となるのは魂そのものではなく、魂の形である〉 多田智満子『魂の形について』。〈ニーチェが告げたように神が死んだのであるなら、…
イラストレーターとしてお仕事する前、私は銀行員だったの。周りの人はみんなすごく優しくて、でもイラストを仕事にしたいと思ったから、自分の希望で退職したの。 家族には、「愚痴は言いません。後悔しません。経済的負担はかけません」と誓って辞めたから…
穂村弘『ぼくの短歌ノート』で知った今橋愛の歌が良かった。 とりにくのような せっけん使ってる わたしのくらしは えいがに ならない それで、電子書籍で本をさがした。むかし歌集はすぐ品切れになって手が届かなくなったりしたが、だいぶ時代は変わった。 …
ずっとトイレに置いてある。うそうそ、電子書籍で持ってる。 小坂井大輔の歌集『平和園に帰ろうよ』。暴力の歌もあればかわいいの歌もある。 値札見るまでは運命かもとさえ思ったセーターさっと手放す 白葱を噛んだらぎゅるっと飛び出して来たんだ闇のような…
2015年の佐々木蔵之介一人芝居『マクベス』に合わせて刊行された『動く森――スコットランド「マクベス」紀行』(扶桑社)。これが、マクベスの副読本としてじつに効く。 キャプションや脚注もぜんぶ、佐々木蔵之介が書いたのではないかとおもわせてくれる一人…
ポーラ・ヴォーゲル『ミネオラ・ツインズ 六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ』(訳・徐賀世子)。 訳者あとがき、解説(伊藤ゆかり)、年表や当時の人名録が付されるなど、親切なつくりになっている。戯曲そのものの短さもあるが。 伊…
李恢成『可能性としての「在日」』。エッセイと講演録。1970年から2001年まで。ながい時間が1冊にまとまっている。ここで何度も言及される北朝鮮と韓国の平和的統一は、まだ実現していない。 初出もあるけれど、底本に『沈黙と海』『円の中の子供』『時代と…
岡田幸生の句集『無伴奏』。はじめに刊行されたのは1996年。文庫サイズの新版を、御本人から買うことができる。 「序」で北田傀子が書いている。 〈短時日のうちに随句(自由律俳句)というものの、いわば息遣いがのみこまれたようで、私は目を見張る思いが…
『旅が好きだ! 21人が見つけた新たな世界への扉』――「14歳の世渡り術シリーズ」の1冊。 14歳への短文ということで、舐めた仕事するひともいれば、真摯なひと、深くえぐってくる、ふんわりと仕上げる、講義調などさまざま。その読み味が大人としてはおもしろ…
〈大学で民俗学を専攻した理由は、旅を続けたいからだった。放浪癖があった私は、小学校高学年の頃にはひとりで時刻表を片手に週末ごとに関東地方の史蹟や伝統的な町並みを訪ね、あるいは山歩きを楽しんだりして至福の時を見出していた。中学生時代には山梨…
白露に薄薔薇色(うすばらいろ)の土龍(もぐら)の掌(て) 川端茅舎 蟻と蟻うなづきあひて何か事ありげに奔(はし)る西へ東へ 橘曙覧 〈『うたの動物記』は二〇〇八年十月から、二〇一〇年十月まで、日本経済新聞の毎日曜の文化欄に連載されたエッセイで…
何年もかけて読了。関川夏央『現代短歌 そのこころみ』。いい本だった。2月26日に二・二六の箇所を読めた。斎藤史。 巻頭は「斎藤茂吉の最晩年と青年時代の中井英夫」。 短歌ほろべ短歌ほろべといふ声す明治末期のごとくひびきて 斎藤茂吉 「生活即歌、と誰…
『愚者には見えないラ・マンチャの王様の裸』観る。扉座「10knocks その扉を叩き続けろ」の第8夜。初演は、1991年。 横内謙介がこの戯曲を執筆しているとき、世界は湾岸戦争だった。今回のプログラムには中東へ単身乗りこんだアントニオ猪木議員のこと、公…
関容子によるインタビュー『舞台の神に愛される男たち』(2012)。連載は月刊「浄土」。 目当ては横内謙介だったが、白井晃も載っていた。 でてくるのは柄本明、笹野高史、すまけい、平幹二朗、山崎努、加藤武、笈田ヨシ、加藤健一、坂東三津五郎、白井晃、…
2001年の書籍『夢みるちから スーパー歌舞伎という未来』。三代目市川猿之助と横内謙介(劇団扉座)による対談と、戯曲『新・三国志』が収められている。 つぎの作品『新・三国志Ⅱ─孔明編─』を控えての出版だった。 20年まえの本である。三代目市川猿之助は…
養老孟司『骸骨巡礼─イタリア・ポルトガル・フランス編─』。〈今度は南欧である。どうしてこんなこと、始めちゃったのかなあ。自分でもよくわからない。人生と同じで、旅はひたすら続く〉 仕事をまとめにいくよりも、継続的ななにかをもっていただくほうが、…
「どこにも書いていないから、自分でやるしかない。学問とは、そういうものだろう」 養老孟司『身体巡礼─ドイツ・オーストリア・チェコ編─』。中欧の墓をたずねる旅。 養老が若いころから関心をもっていたのは、ハプスブルク家の心臓埋葬。心臓と、その他の…
こうしてこの筆を執って見ようと思うまでに、既に一月半以上の月日が経った。その間にはいろいろなことがあった。それに付随して起った甘粕事件もあれば、暴動殺人の亀戸事件もあった。その時分はまだ暑かったのに、蚊がいたのに、虫が鳴いていたのに、今で…
もう、行くも戻るも手遅れの、どうしようもないぬかるみ未知に踏み入れた三十歳だったのである。賭けごとや悪い遊びをしないのが、唯一の救いというぐらい。 岡崎武志 岡崎武志『ここが私の東京』。『上京する文學』の続編にあたる。 紹介されるのは佐藤泰志…
わたしにわかっていることは、人はだれでも決して自分には賭けない、ということである。骨牌はいつも比喩を超えて実在し、偶然の至福を受けるのはカルタであって、ジョーカーやクイーンはますます美しく、そしてそれをめくる手の方はテーブルの片隅で少しず…
『続 わけあって絶滅しました。』丸山貴史、著。絵はサトウマサノリ、ウエタケヨーコ、北澤平祐。監修、今泉忠明。 絶滅を引き起こす最大の理由。それは「環境の変化」です。 (……) 「強い」「弱い」は環境によって変わります。 だから、どんな生き物が生き…
トークライブ「芸術ロック公演」(ワタリウム美術館、オン・サンデーズ)行く。『芸術ロック宣言』の現代芸術家・さいあくななちゃんと、装丁を手掛けた川名潤によるイベント。あまりに率直で、何度も胸を衝かれた。 さいあくななちゃんはこの本に命を懸けて…
〈Part1では、私が実際に訪れたお気に入りのホットケーキの名店を紹介しました。気が向いたら、ぜひお近くのお店を訪ねてみてください。 たんなるガイドブックであれば、それでおしまいなのですが、そこで終わらないのがこの本の変なところです〉 遠藤功『「…