大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

演劇

〈夏休みよ さようなら 僕の少年よ さようなら〉

『三上博史 歌劇 私さえも、私自身がつくり出した一片の物語の主人公にすぎない』観る。 開場してすぐ、トイレと物販に行列ができる。そこへ現れ、徘徊する演劇実験室◉万有引力の俳優たち……。 おおきい劇場だから、ロビーがある。舞台とは異なる光のもと、か…

「ああ、あたしが手を触れるものは、何もかも滑稽で、下卑たものになっちまうのね」

劇団新人会『ヘッダ・ガーブレル』観る。上野ストアハウス。 新人会といっても第1回公演は1954年。俳優座から派生した新劇のユニットであり、今回演出にまわった前田昌明は1932年生まれ。91歳だ。 主演の萩原萠と、今回出演はないが永野和宏の3名で劇団新…

アトリエ乾電池 別役実

劇団東京乾電池『小さな家と五人の紳士』観る。別役実、作。演出は柄本明。 男1(矢戸一平)と男2(川崎勇人)、舞台度胸はあるけれど不器用で、人間臭い。満点の演技ではないが、そのぶんだけ演出家がどのような演出をしているのかすこしわかったような気…

アトリエ乾電池の充実。

劇団東京乾電池『牛山ホテル』観る。作・岸田國士、演出・柄本明。 どえらいものを観た。緞帳におおきく「仏領印度支那のある港 九月の末 雨期に入らうとする前」とさいしょのト書が縫いつけてある。リーフレットにはこれまたおおきく岸田國士の言葉が印刷さ…

レオとルミとダーウィンと。バズとジェイとニースと。

『ダーウィン・ヤング 悪の起源』(演出・末満健一)観る。主演はWキャスト。大東立樹のほうを。 九つに階級分けされた街。60年前の暴動、あるいは革命がいまも話題になる。舞台は、200年続く寄宿学校。学校のそとでは、謎の死を遂げた少年の30回目の追悼式…

「僕はね、あの女と結婚してもいいと思つてゐるんです。しかし、さうすると、あの女が可哀想ですよ。僕は、半年経たないうちに、あの女を棄ててしまふでせう」

岸田國士「『歳月』前記」という短文には、つぎのようにある。 「牛山ホテル」は昭和三年十二月、中央公論に書いたもので、天草の方言は友人のH君を煩はしてやつと恰好をつけた。 読みづらいといふ批難をあちこちから受けたが、我慢して読んでくれた人から…

「一晩で女性は堕落しますよ」

唐組・第71回公演『透明人間』。紅テント、靴を脱いでの桟敷席。観客ぎっしり。 テント芝居はプロレス観戦に似て、舞台に上がる人物たちに先ず感動する。『透明人間』の初演は1990年だから、しょうゆ顔ソース顔なんて言葉もでてくる。 岸田國士戯曲賞を『少…

「あなたとの、考える日々は、私には限りなく楽しかった。そうして、それを続けたかった」  魚怪先生

扉座『Kappa 〜中島敦の「わが西遊記」より〜』見る。脚本、横内謙介。 「夢」や「理想」という遙かで、みずみずしいものへの志向が中島敦にも横内謙介にもある。だからもちろん相性は好い。 横内謙介にとっての「夢」は演劇にあり、舞台をとおして語られる…

第一期 B機関 ファイナル公演『毛皮のマリー』観る。 主宰の点滅はリーフレットの挨拶を、天正遣欧少年使節団の話から始める。 備忘のために全文引用しておく。 天正遣欧少年使節団は二年の歳月と命をかけて欧州に渡り キリスト教の洗礼を受けた 同時期、同…

ひとつの場所の行間、余白。

『ショウ・マスト・ゴー・オン』。初演は1991年。脚本・演出、三谷幸喜。 代演がつづき、公演中止の日もでた令和版。配信も一度は中止になってからの、追加公演と、配信。 ワン・シチュエーションのコメディ。舞台となるのは「舞台の現場」。といって舞台上…

〈此処を死場と定めたるなれば厭(い)やとて更に何方(いづかた)に行くべき〉  樋口一葉『わかれ道』

私は明日(あす)あの裏の移転(ひっこし)をするよ、余(あんま)りだしぬけだからさぞお前おどろくだらうね、私も少し不意なのでまだ本当とも思はれない、ともかく喜んでおくれ悪るい事では無いからと言ふに、本当か、本当か、と吉は呆(あき)れて、嘘で…

「♪この晴れた土曜に、グチャな、グチャな、グチャなものを見に来てくれて……偉い」  近藤良平

近藤良平、黒田育世『私の恋人』観る。演出、振付は二人で。初演は2004年。 黒田育世のダンスはどこで観ても悲劇過ぎず、喜劇過ぎず、おもしろい。それがふしぎだったけれども、幾度も再演されてきたこの共演作で謎が解けた。プロレス頭だ。 キャッチーな近…

「二人だと耐えられることが、一人だと、耐えきれなくなってくる」  『そして、飯島くんしかいなくなった』

BSプレミアム「プレミアムステージ」で『そして、飯島君しかいなくなった』(2000)観る。初めての(22年ぶりの)再放送とか。 演劇集団円による舞台。脚本は土屋理敬。演出、松井範雄。何をえがこうとしたか。冒頭のインタビューで土屋理敬は「告白」――島崎…

熱烈に愛される。期待される。自由の可能性。しかし、

オフィスコットーネ『加担者』観る。プロデューサー・綿貫凛、演出は稲葉賀恵。 作、フリードリヒ・デュレンマット(翻訳、増本浩子)。 デュレンマットには2021年9月の『物理学者たち』(ワタナベエンターテインメント主催。本多劇場)、2022年6月の『貴婦…

恋はケレン

サイモン・スティーヴンス作『ハイゼンベルク』。 75歳の男と、40代の女。出あった二人の距離が近づく。色恋を支えるのは純粋な動機ばかりではない。打算もあろう。それをあいてが容れてくれるか、また自身で認められるかどうか。そういう会話劇であったよう…

白石加代子の役名はカヨでもよかったんだと一寸夢想した。

KAATキッズ・プログラム2022『さいごの1つ前』観る。 目当ては白石加代子(1941年生)と久保井研(1962年生)の共演。作・演出は松井周(1972年生)。 ほかに出演者は薬丸翔(1990年生)、湯川ひな(2001年生)。 冒頭、映画を観ているカオル(白石加代子)…

「できますとも。ここは東京なんですもの」

ブレイヴステップ公演『私の下町(ダウンタウン) 母の写真』観る。 町のにぎわい、ひとびとの醸しだす活気。そういうものが演出され、演技をされて揺さぶられる。舞台の醍醐味は、小屋にいながらその天井をわすれる没入の時。奥行だってどこまでもひろがる…

「世界はわたしを娼婦にした。今度は、わたしが世界を娼婦にする」

シリーズ「声 議論、正論、極論、批判、対話…の物語 vol.3」『貴婦人の来訪』観る。初演は1956年。作、フリードリヒ・デュレンマット。 失業者あふれる町ギュレン。17歳のときにこの町をはなれた少女が、45年ぶりにもどってくる。富裕な貴婦人となって。この…

〈姉が血を吐く 妹が火吐く 謎の暗闇 瓶を吐く〉

演劇実験室◎万有引力『盲人書簡◎少年倶楽部篇』観る。高橋優太回。今村博、三俣遥河も存在感を増していた。表現や、自負はこの時代だからつよくなる。俳優よりももっとゲンミツに、万有引力という括り。ここに帰属することの徴。 森ようこ、山田桜子、内山日…

「美味しそう? 檜垣さん、性はケーキではありません」

唐組『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』観る。状況劇場での初演は1976年。 「おちょこの傘」がわからなくってタイトルから敷居が高いけれども、風で裏がえった傘、あれがおちょこであるらしい。それじゃあ空を飛ぶことができないので、傘の修繕、試作を繰…

〈初期化された この 世界〉

倉持裕、作・演出『DOORS』(2021.5.29 世田谷パブリックシアター)。 出演は奈緒、伊藤万理華、早霧せいな、田村たがめ、菅原永二、今野浩喜。 平行世界を行き来するジュブナイル。岩波少年文庫のような。 はじまりは、雷雨の夜。陰惨に衝突する母子家庭。…

「永井荷風も永六輔もいつも寄席にいたでしょ。常に人混みの中にいないと見つけられないよ」  高田文夫

『散歩の達人』2022.5 。「俳優 安藤玉恵を育んだ西尾久の街」目当ての購入。大特集「都電荒川線さんぽ」と特集「街には笑いが必要だ!」の相性も良い。 安藤玉恵の地元は、三業地。「私の祖母は、阿部定さんを見たことがあるらしいんです」 玉恵 私、阿部定…

まだ見ぬ怪物を飼い馴らそうとする

『アンチポデス』観る。新国立劇場のシリーズ「『声』 議論、正論、極論、批判、対話…の物語 vol.1」として。 『アンチポデス』を書いたのはアニー・ベイカー。翻訳、小田島創志。演出、小川絵梨子。とある会議室で芸術的、財政的におおきく成功するためのブ…

対立、断片化していく世界のこと。(それを「男」と「女」で説明すること)

シス・カンパニー公演『奇蹟 miracle one-way ticket』観る。1時間42分。 北村想によるシャーロック・ホームズのパスティーシュ。 人物と、場所が用意される。事件と出遭い、解決する。平易な構造を埋めていくのは衒学的あるいは雑学的な饒舌と、メタな社会…

イチゴではなく

劇団 山の手事情社 ニュージェネレーション公演『ほんのりレモン風味』観る。構成・演出は川村岳、名越未央。監修、安田雅弘。 〈今回出てくる登場人物のキャラクター、ストーリー、セリフなどは、山の手事情社の俳優育成法《山の手メソッド》を用いた稽古に…

「日本では森は“自然”を象徴するが、ヨーロッパでは“超自然”を象徴しているのである」

2015年の佐々木蔵之介一人芝居『マクベス』に合わせて刊行された『動く森――スコットランド「マクベス」紀行』(扶桑社)。これが、マクベスの副読本としてじつに効く。 キャプションや脚注もぜんぶ、佐々木蔵之介が書いたのではないかとおもわせてくれる一人…

人間の憎悪のゆくえ。

『ミネオラ・ツインズ』観る。ずいぶんまじめな演出だった。戯曲の迫力、疾走感、喜劇性……。既成の価値観に対する哄笑はうすれていた。 えがかれる物語世界の、歴史や思想にこだわったまま生硬で、演劇のもつ遊び、匿名/透明性、普遍的衝動をなかなか得られ…

(一人芝居の頂点)

アンドリュー・ゴールドバーグ演出『マクベス』(2015)。主演、佐々木蔵之介。一人で二十役。所は、病棟。女性医師に大西多摩恵。看護師、由利昌也。 精神を病んだ者が、すでにある世界を演じ、つづける(ここでは『マクベス』)趣向というか状態はありふれ…

ジョエル・コーエンの『マクベス』。

どこへ逃げたら? 何も悪いことをした覚えはない。いいえ、この世に生きているのだ、ここでは、悪いことをして、かえって賞(ほ)められ、よいことをして、危ない目にあい、ばか呼ばわりもされかねない、そうだとすれば、悪いことをした覚えはないなどと、所…

「だからってすごすごと、脇役になれって? 冗談じゃないわよ、わたしはね、どこにでもいる主婦とはちがうの、特別な人間なの」

「夫人。あなたには家庭がある。ただの主婦に、もどればいい」 「それがもの足りないから……踊ってたのよ」 「大阪御ゑん祭 『夫人マクベス』」(2019)。マクベス夫人としての近藤芳正を軸に、起承転結、4つのユニットのオムニバス。 【起】テノヒラサイズ「…