大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

演劇

ジョエル・コーエンの『マクベス』。

どこへ逃げたら? 何も悪いことをした覚えはない。いいえ、この世に生きているのだ、ここでは、悪いことをして、かえって賞(ほ)められ、よいことをして、危ない目にあい、ばか呼ばわりもされかねない、そうだとすれば、悪いことをした覚えはないなどと、所…

「だからってすごすごと、脇役になれって? 冗談じゃないわよ、わたしはね、どこにでもいる主婦とはちがうの、特別な人間なの」

「夫人。あなたには家庭がある。ただの主婦に、もどればいい」 「それがもの足りないから……踊ってたのよ」 「大阪御ゑん祭 『夫人マクベス』」(2019)。マクベス夫人としての近藤芳正を軸に、起承転結、4つのユニットのオムニバス。 【起】テノヒラサイズ「…

「何が知りたいんです?」「だから。どっちがオトコなの?」

ポーラ・ヴォーゲル『ミネオラ・ツインズ 六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ』(訳・徐賀世子)。 訳者あとがき、解説(伊藤ゆかり)、年表や当時の人名録が付されるなど、親切なつくりになっている。戯曲そのものの短さもあるが。 伊…

笈田ヨシ、米寿。

KAAT 神奈川芸術劇場にはダンスばかり観にきている。 伊藤郁女、笈田ヨシ『Le Tambour de soie 綾の鼓』。 能の「綾鼓」。演劇として翻案した三島由紀夫の「綾の鼓」(近代能楽集)。そこへダンス。“モダン能”となって世界をまわる。テキストは、ジャン=ク…

「さみしい音だが、匂いは佳い」

山田裕貴、松雪泰子の『海王星』。 「寺山修司が『天井桟敷』結成前に書いた未上演の音楽劇を新生PARCO劇場でついに初演!」とチラシに。古典と呼んでもいいが、若書きである。 物語から連想されるのは宮沢賢治『銀河鉄道の夜』やツルゲーネフ『はつ恋』。そ…

観客 「『犬殺し』って何ですか?」

演劇実験室◉万有引力『Ø 迷路と死海 ―演劇零年◉見えない演劇!―』。 台本は〈寺山修司戯曲集より〉。演出・音楽・美術はJ・A・シーザー。構成・共同演出に高田恵篤。 シアター・アルファ東京、こけら落とし公演として。久しぶりの高橋優太出演。さらには根本…

「もしこのまま漂流したらどうすんだよ。漂流教室みたいにさ。一番漂流してほしくねーよ、この教室」

扉座『ホテルカルフォルニア ―私戯曲 県立厚木高校物語―』観る。一夜だけの特別公演『山椒魚だぞ!』付き。 客入れから賑やかで、かつての劇場の期待とざわめき。祭りの匂い。豊富な物販を、ベテラン俳優たちが売っている。公演前の場内を売り歩く姿も。 去…

「これが九ヵ月前なら、わたしだって彼女の経歴に怪しい点があると言ったかもしれない……」

グレアム・グリーン原作の舞台『叔母との旅』。観るまえから涙があふれ、終演後にはボロ泣き。抑えられない。 映画でいうと『シラノ・ド・ベルジュラック』(1990)や『アマデウス』(1984)のような、堂々たる「告白」の物語。あるいは「告白」へと近づいて…

ニンジャバットマン ザ・ショー

『ニンジャバットマン ザ・ショー』観る。演出/構成は梅棒の塩野拓矢。構成・文化監修、音楽監督にHANZO。ダンスとラップ、HIP HOP な要素多めの2.5次元。 予習が必須というよりも、アニメ『ニンジャバットマン』の復習になりそうな。台詞すくなく敷居は高い…

駄菓子屋の豊饒

はえぎわ『ベンバー・ノー その意味は?』観る。会場は新宿シアタートップス。かつて新宿角座だったところ。 すこしずつ、なにかが無くなっていくと舞台でノゾエ征爾が言った。「ノゾエの『ゾ』がなくなってノエになる」と。 それは筒井康隆の小説『残像に口…

「情熱をうしなったというよりは、情熱を理想化して、凍りつかせてしまったと言ったほうがいいのかもしれない」

ケムリ研究室no.2 『砂の女』(シアタートラム)。主演は緒川たまき、仲村トオル。ほかにオクイシュージ、武谷公雄、吉増裕士、廣川三憲。声(とシルエット)、町田マリー。音楽・演奏、上野洋子。 原作は安部公房の小説。濃密かつ映像的な世界がみごと演劇…

安部公房『友達』

配信、シス・カンパニー『友達』(新国立劇場・小劇場)。安部公房原作の、典型的な不条理劇。《疎外》をかんじている孤独な青年の部屋を、まったく面識のない大家族が訪れ、住みつく。監視と監禁。ドラマの密室性を高めるためには部活や会社などよりも都合…

「これより千六百年の休憩に入ります」

作・しりあがり寿、演出・天野天街。芸術監督に流山児祥。『ヒ me 呼』観る。 器のおおきい流山児祥と、器のおおきいしりあがり寿と、器のおおきい天野天街と。想像以上にファンタジーで、リアルで、古代で、現代だった。 物語のはじまりは現代の温泉場。そ…

「物理学者でありながら、罪に染まらず」

フリードリヒ・デュレンマット原作『物理学者たち』(ワタナベエンターテインメント Diverse Theater)観る。上演時間2時間10分。 舞台は「桜の園」という名の、いまは精神病患者の施設となったサナトリウム。 自称ニュートン、自称アインシュタイン、殺害、…

〈俺たちモグラ 酒があればいい〉

椿組『貫く閃光、彼方へ』観る。花園神社野外劇。 1年間、延期されていた演目。おもな舞台は1962年の新丹那トンネル掘削現場。このトンネルを新幹線が走る。目ざすは1964年の東京オリンピック。TOKYO2020に合わせたテーマでもあったわけだ。 「コロナ禍の中…

杉田玄白83歳

扉座『解体青茶婆』観る。作・演出、横内謙介。 日本の古典芸能に寄せた演出で、正方の舞台。生の演奏(ここではヴァイオリン)。間接照明、また夜を表すものとして蝋燭の灯り。 杉田玄白(有馬自由)の晩年。「蘭学事始」の草稿は出来ている。しかし、腑分…

舞台にも。俳優がたくさんたくさん乗っていた日を思いだしつつせむし男。

演劇実験室◎万有引力『青森県のせむし男』観る。琵琶、川嶋信子。二十五絃箏、本間貴士。上演時間1時間15分。 寺山修司の、探偵小説ごのみ。独白と、噂話ではじまるので、人間と人間がぶつかり合うドラマは中盤以降。 老いたる花嫁・大正マツに高田恵篤、女…

情炎の相聞歌

おしゃれ紳士×梅棒『The Story ベランダカラミルモノガタリ』観る。そのあと花園神社で唐組『ビニールの城』を。 『ベランダカラミルモノガタリ』。おしゃれ紳士からは西川康太郎、池田遼、井内勇希、伊藤祐輔。 梅棒からは伊藤今人、遠山晶司、遠藤誠、櫻井…

あくまで身体表現としての、発話。

『WOW! いきなり本読み!』#1 。 脚本・演出は岩井秀人。今回の本である「ごっちん」にぶっつけで挑んだのは水川あさみ、上白石萌歌、皆川猿時。 台本を与えられ、指示を受け、意図を汲み、演じる。一人で何役も掛け持ちしたり、ばめんが変わればちがう役を…

〈刑期は、三万年〉

朝、観ていた『魔神戦隊キラメイジャー』ではヒーローたちが猫にされた。猫となった充瑠(小宮璃央)は純粋で、敵であるはずのクランチュラ(声・高戸靖広)とも一時、甘やかな友愛が生まれた。おなじ作り手として、という説明があったけれども、かってに読…

「落とし穴に嵌まってしまった。そのことに彼は気づいていない」

二兎社『ザ・空気 ver.3 そして彼は去った…』観る。 永井愛の脚本・演出。出演に佐藤B作。この二人の名が目当てだったが、金子大地、韓英恵、和田正人、神野三鈴いずれも素晴らしかった。声の出演で吉田ウーロン太。1時間45分。 佐藤B作が演じるのは、番組…

鬢付け油という天丼

『両国花錦闘士(りょうごくおしゃれりきし)』観る。作・演出、青木豪。 明治座三田光政、東宝鈴木隆介、ヴィレッヂ浅生博一による〈三銃士〉企画。相撲をあつかった漫画(いしかわじゅん『薔薇の木に薔薇の花咲く』ではない)を原作にして、果たして舞台が…

ある君主論

『愚者には見えないラ・マンチャの王様の裸』観る。扉座「10knocks その扉を叩き続けろ」の第8夜。初演は、1991年。 横内謙介がこの戯曲を執筆しているとき、世界は湾岸戦争だった。今回のプログラムには中東へ単身乗りこんだアントニオ猪木議員のこと、公…

ブロードウェイでも観たいとおもった。オリジナルの濃くて、派手なやつを。

大野拓朗が見たくて、シアターオーブの『プロデューサーズ』に行く。甘やかな声と顔をもち、長身なのにどこか頼りないという魅力的な俳優だ。これからどんどん伸びていくのだろうと、テレビドラマ『ベビーシッター・ギン!』の善戦をみていたら、ホリプロを…

役者の無垢で押し通すフシもあるが、良い舞台

ハイバイ『投げられやすい石』観る。舞台にでてきた俳優・山脇辰哉が観劇前の注意事項を語り、「始めます。2年前です」と話に入る。さいしょのばめんは青春、才能、イケイケの主要人物たち。 「天才」の佐藤(岩男海史)、「凡人」の山田(山脇辰哉)。佐藤…

「俺は今泣いてるぞ、とか、笑ってるぞ、とかいうのが芝居だと思う」  横内謙介

関容子によるインタビュー『舞台の神に愛される男たち』(2012)。連載は月刊「浄土」。 目当ては横内謙介だったが、白井晃も載っていた。 でてくるのは柄本明、笹野高史、すまけい、平幹二朗、山崎努、加藤武、笈田ヨシ、加藤健一、坂東三津五郎、白井晃、…

横内謙介と、スーパー歌舞伎

2001年の書籍『夢みるちから スーパー歌舞伎という未来』。三代目市川猿之助と横内謙介(劇団扉座)による対談と、戯曲『新・三国志』が収められている。 つぎの作品『新・三国志Ⅱ─孔明編─』を控えての出版だった。 20年まえの本である。三代目市川猿之助は…

根本豊による『五月の鷹』。以来の、

夢精して目が覚めた。万有引力こわい。春風亭一之輔の『鼠穴』(「落語ディーパー」)聴いて、スズナリに行く。席に着くと舞台では高田恵篤が首に縄を巻いていた。『鼠穴』もそんな話だ。『鼠穴』の主人公は若いが、リア王みたいなものだ。なにもかもうしな…

魔痢子「何もかも、妄想なのです」

最後に生き残った者たちは激昂し、それまでは従順で高潔だった息子が父を殺す。禁欲家は近親者たちの肛門を掘る。淫蕩な者は純粋になる。守銭奴は金貨を鷲づかみにして窓から投げ捨てる。戦争の英雄はかつて命がけで救った町を焼き払う。上品な者は着飾って…

アンチロマンの反対なのだ

ごあいさつ 去年・一昨年と大人数の芝居をたくさんやったので、「一人でどこまでやれるか」試すため、一人芝居をやろうと考えたのが昨年末。それからあれよあれよとコロナが広まって、世の中がすっかり様変わりし、この企画も大きく変わりました。本当なら作…