大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

〈古代エジプト語で墓は「永遠の家」であり、墓場は「永遠の町」である〉

〈霊魂について語るといっても、もちろん宗教にかかわるわけではなく、また、哲学的な問題に立入るわけでもない。ここで話題となるのは魂そのものではなく、魂の形である〉 多田智満子『魂の形について』。〈ニーチェが告げたように神が死んだのであるなら、…

「できますとも。ここは東京なんですもの」

ブレイヴステップ公演『私の下町(ダウンタウン) 母の写真』観る。 町のにぎわい、ひとびとの醸しだす活気。そういうものが演出され、演技をされて揺さぶられる。舞台の醍醐味は、小屋にいながらその天井をわすれる没入の時。奥行だってどこまでもひろがる…

汗を掻く 歯が欠ける 夏に跳ねる

『ザ少年倶楽部』、NHKホールにもどってくる。「みなみなサマー」と「未来SUNRISE」が聴ける回。心身共に愛しいのは佐藤龍我だけれど、那須雄登の体現するアイドル観も物凄くフィットする。キラキラ、といっても信号機の明滅みたいにキラキラキラキラキラキ…

開演13時、終演予定15時20分。押した。

『春風亭一之輔のドッサリまわるぜ 2022』、よみうりホール。 オープニングは私服姿で春風亭一之輔。これだけで会場が盛りあがる。 開口一番は春風亭与いち「金明竹」。 一之輔は「加賀の千代」「反対俥」。仲入りあって「百年目」。 「加賀の千代」はご隠居…

〈時々、自分の人生を「物」みたいに、客観的に考えるの〉  田村セツコ

イラストレーターとしてお仕事する前、私は銀行員だったの。周りの人はみんなすごく優しくて、でもイラストを仕事にしたいと思ったから、自分の希望で退職したの。 家族には、「愚痴は言いません。後悔しません。経済的負担はかけません」と誓って辞めたから…

「世界はわたしを娼婦にした。今度は、わたしが世界を娼婦にする」

シリーズ「声 議論、正論、極論、批判、対話…の物語 vol.3」『貴婦人の来訪』観る。初演は1956年。作、フリードリヒ・デュレンマット。 失業者あふれる町ギュレン。17歳のときにこの町をはなれた少女が、45年ぶりにもどってくる。富裕な貴婦人となって。この…

〈若い頃にお会いしていたらきっと喧嘩になったろう。そう考えると年を取るのも悪い事ではないのかもしれない〉

デビュー45周年、「夢幻紳士」シリーズは9年ぶりの刊行という刻の話題から沁みるものある。短篇という美しい形式によって養われた世界が、やわらかな奥行をみせる。 するどくなめらかな反復と螺旋。夢使いとして自他の想念に入りこむ。妖の裏を掻く。夢幻紳…

やんちゃなくろねこ、風をつくる。

『くろねこルーシー』(2012)。映画版は、テレビドラマの前日譚。陽の父・賢を主人公にしたメルヘン(猫はしゃべらない)。 迷信を信じ過ぎるために占い師として大成できない鴨志田賢(塚地武雅)。隣のブースの同業者(濱田マリ)にキャラを立てろと助言さ…

〈姉が血を吐く 妹が火吐く 謎の暗闇 瓶を吐く〉

演劇実験室◎万有引力『盲人書簡◎少年倶楽部篇』観る。高橋優太回。今村博、三俣遥河も存在感を増していた。表現や、自負はこの時代だからつよくなる。俳優よりももっとゲンミツに、万有引力という括り。ここに帰属することの徴。 森ようこ、山田桜子、内山日…

〈子馬はおじいさんにパカパカと鳴いてよびかけますが、おじいさんは起き上がる様子がありません〉

松尾スズキによる絵本『気づかいルーシー』(千倉書房)。 強烈。「気づかい」から連想されるような凪いだ話ではない。おじいさんの皮をかぶっておじいさんのふりをする、馬。それに気づかないふりをするルーシー。 あとがきで松尾スズキ、〈ルーシーと王子…

耐性がつく。視える力がつよくなる。

『ルームロンダリング』(2018)。ツタヤクリエイターズプログラム、2015年の準グランプリ企画。 事故物件を実話系でなく、ファンタジーとして構築している。分断されがちな短編集の如き霊たちをひとつのばしょにあつめるのも佳い。 劇中に登場する児童書と…

「美味しそう? 檜垣さん、性はケーキではありません」

唐組『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』観る。状況劇場での初演は1976年。 「おちょこの傘」がわからなくってタイトルから敷居が高いけれども、風で裏がえった傘、あれがおちょこであるらしい。それじゃあ空を飛ぶことができないので、傘の修繕、試作を繰…

夜のかがやき

中川英二郎、エリック・ミヤシロ、本田雅人の「SUPER BRASS STARS」が特別編成、サプライズもある『SUPER BRASS STARS XXL EDITION』。東京国際フォーラム ホールC。 中川英二郎(トロンボーン)、エリック・ミヤシロ(トランペット)、本田雅人(サクソフォ…

〈冬の木がきょねんのようには見えぬこと ほっとよろこんで ただすぎてゆく〉  今橋愛

永井 私がいちばん思ったのは「上がるから、下がる」んだなあということを、思うんですよね。なんか20年やってると、すっごいやる気あった人ほど、なんかに失望しちゃうと。 石川 あー、やめちゃうとか。 永井 離れちゃうとか。やっぱそういうことってあるん…

〈初期化された この 世界〉

倉持裕、作・演出『DOORS』(2021.5.29 世田谷パブリックシアター)。 出演は奈緒、伊藤万理華、早霧せいな、田村たがめ、菅原永二、今野浩喜。 平行世界を行き来するジュブナイル。岩波少年文庫のような。 はじまりは、雷雨の夜。陰惨に衝突する母子家庭。…

「永井荷風も永六輔もいつも寄席にいたでしょ。常に人混みの中にいないと見つけられないよ」  高田文夫

『散歩の達人』2022.5 。「俳優 安藤玉恵を育んだ西尾久の街」目当ての購入。大特集「都電荒川線さんぽ」と特集「街には笑いが必要だ!」の相性も良い。 安藤玉恵の地元は、三業地。「私の祖母は、阿部定さんを見たことがあるらしいんです」 玉恵 私、阿部定…

まだ見ぬ怪物を飼い馴らそうとする

『アンチポデス』観る。新国立劇場のシリーズ「『声』 議論、正論、極論、批判、対話…の物語 vol.1」として。 『アンチポデス』を書いたのはアニー・ベイカー。翻訳、小田島創志。演出、小川絵梨子。とある会議室で芸術的、財政的におおきく成功するためのブ…

「おまえはじぶんが信じるものしか見れないからダメ。人間は信じられないものも見えるからいいんだよ」

肝心なことが全然見えてないんだよね。 幽霊とかUFOとか見たことある? あたしはあるわよ。 (……) たまには、ありえないものとか、見なさいよ。 「たとえば、いまそこで河童がウロウロしてるけど、どうせあんたには見えないんでしょ?」と、母(松坂慶子)…

血だまりの(イマジナリー)フレンド

ジェームズ・ワン監督『マリグナント 狂暴な悪夢』(2021)。 さまざまな引用のなかでいちばんつよくかんじたのはウェス・クレイヴン。『エルム街の悪夢』『スクリーム』『壁の中に誰かがいる』……。襲ってくるのは人間的な身体能力と、憎悪。 スリラー、サス…

さいごは、東京大衆歌謡楽団。

「『二つ目物語』完成記念特別上映会」行く。 監督、林家しん平。上映前の進行は蝶花楼桃花。しん平師、喋れば飽きさせない。今作・柳家㐂三郎の演技と『落語物語』(2011)の柳家わさびの違いや、前座ぽっぽ→二つ目ぴっかりを経てしん平映画常連である蝶花…

〈そこからわずか数手で形勢は非情にも傾きはじめる 将棋とは逆転のゲーム――〉

南Q太『ひらけ駒!』第3巻。 「やだ――ちょっとそこ引かないでくれる べつに若い子見に行ってるわけじゃないのよ」 「あたしは若い子 見に行ってるよ(キッパリ)」 女子アマ団体戦。おとなのチームとこどものチームが対戦する雑多。おひるごはんをたべなが…

「宮殿のことパレスっていうでしょ」「だからパレスサイドビルなのね」

南Q太『ひらけ駒!』第2巻。 「今日の棋譜 書いておいたら よかったかな〜〜 一応道場でも 相手の人に ことわったら 棋譜書いても いいんだって」 「羽生さんも 深浦さんも 小学生で 書いてた」初めての棋譜。こどもの夜の熱中。 「考えてもみろ どんな奴で…

余白がある。軽快。

南Q太『ひらけ駒!』第1巻。母と子。将棋にハマる。 天才の物語でなく、読みやすい。なにかを好きになる。その衝動の素直さ。ねむる子のまわりにひろがるたくさんの将棋の本。エッセイや絵本のような慈しみ深い描写が佳い。 子の物語だから礼儀正しいのも美…

〈たくさんのおんなのひとがいるなかで わたしをみつけてくれてありがとう〉  今橋愛

穂村弘『ぼくの短歌ノート』で知った今橋愛の歌が良かった。 とりにくのような せっけん使ってる わたしのくらしは えいがに ならない それで、電子書籍で本をさがした。むかし歌集はすぐ品切れになって手が届かなくなったりしたが、だいぶ時代は変わった。 …

〈柔道の受け身練習目を閉じて音だけ聞いていたら海です〉  小坂井大輔

ずっとトイレに置いてある。うそうそ、電子書籍で持ってる。 小坂井大輔の歌集『平和園に帰ろうよ』。暴力の歌もあればかわいいの歌もある。 値札見るまでは運命かもとさえ思ったセーターさっと手放す 白葱を噛んだらぎゅるっと飛び出して来たんだ闇のような…

するどさのとれた愛情

マイテ・アルベルディ監督『83歳のやさしいスパイ』(2020)。ほどほどにお節介な、それだけに溜めのあるドラマは生まれにくい、隣人愛あふれる映画を観たくて。 89分。尺も良い。登場人物たちは若者でないから「挫折した」とか「失った」といった断定よりは…

対立、断片化していく世界のこと。(それを「男」と「女」で説明すること)

シス・カンパニー公演『奇蹟 miracle one-way ticket』観る。1時間42分。 北村想によるシャーロック・ホームズのパスティーシュ。 人物と、場所が用意される。事件と出遭い、解決する。平易な構造を埋めていくのは衒学的あるいは雑学的な饒舌と、メタな社会…

〈這うようにして創り続けて来た作品と何度でも這いつくばって〉  黒田育世

『黒田育世 再演譚 vol.1』行く。演目は「病める舞姫」「春の祭典」。 ソロ作品「病める舞姫」は2018年の初演のかたちそのままに、鈴木ユキオが踊る。劇場リーフレットで黒田育世は〈同じ形で踊って下さるのをじっと見つめて、その差異から迷路の理由を学び…

鰍沢

第4回『三遊亭楽八独演会』。訪れて、江戸東京博物館が4月から休館に入ると知る。 演目は三遊亭楽八「千早振る」、春風亭いっ休「初天神」、楽八「宮戸川」。仲入りあって楽八「鰍沢」。 「鰍沢」の花魁だったお熊、「宮戸川」の若いお花。異なるタイプの女…

イチゴではなく

劇団 山の手事情社 ニュージェネレーション公演『ほんのりレモン風味』観る。構成・演出は川村岳、名越未央。監修、安田雅弘。 〈今回出てくる登場人物のキャラクター、ストーリー、セリフなどは、山の手事情社の俳優育成法《山の手メソッド》を用いた稽古に…