大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

〈安吾を初めて読んだ十九、二十歳の頃の私が、安吾に求めていたのは爽快感だった。だから女を咒う系統のお話などは鬱陶しくてイヤだった。/年をとったからか、ようやく素直な心で「夜長姫と耳男」を読めるようになった。すると鬱陶しいどころか、何かの上澄みのように清らかな話であった〉  近藤ようこ「あとがき」

夜長姫と耳男 (ビッグコミックススペシャル)
近藤ようこ夜長姫と耳男 (ビッグコミックススペシャル)』。「おまえはカンシャクもちのくせに小心者で、人の顔もまともに見ないやつだ。だがそれではダメだ。いいか! 珍しい人や物に出会った時は目をはなすな。オレの師匠がそういっていた。そして師匠は、そのまた師匠にそういわれた」


近藤ようこの描くおとこは清潔だ。坂口安吾の描くおとこは壊れているがしばしばおんなに圧倒される。おとこは若くて初心(うぶ)だということかもしれない。だから優しい。おくびょうを隠して、タナトスなんぞなにほどでもないやと。
ところがおくびょうを隠してしまったばっかりに、逃げる機会を失くしてしまう。

オレは居たたまれずに一散に逃げたいと思ったが、足はすくんでいたし、心もすくんでいた。
オレは姫が憎いとはついぞ思ったことはないが、
この姫が生きているのは怖ろしいということをその時はじめて考えた。