大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

〈「もし」ってやつは、星みたいに無限なんだ〉

プリンセスメゾン 1 (ビッグコミックス) マゾヒストMの遺言 マザーランドの月 (SUPER!YA)
週刊文春』2015.9.10、「私の読書日記」は穂村弘
紹介されているのは池辺葵のマンガ『プリンセスメゾン』、沼正三『マゾヒストMの遺言』、それからサリー・ガードナー『マザーランドの月』。
マザーランドの月。一冊の本ではあるけれど、ヤングアダルト小説だし、そのなかでも分量のすくないほうだろう。
あらすじを書いたり、なにかを並べてみたりすると、それでもう展開は読めてしまう。そういうものをひとに伝えるにはどうするか。
がっつり引用する。それしかない。
穂村弘はかなりすごいところを引用している。あきらかに終盤。それを孫引きする。

ヘクター以外のことはどうでもいい。ヘクターは今だ。今この瞬間だ。今だけなんだ。
「キスしてほしい」ヘクターが小声で言った。
ずっと、最初にキスするのは、女の子だと思ってた。でも、今、そんなことはどうでもよかった。おれはヘクターにキスした。それから、キスされた。あこがれと共に。おれたちが一生手に入れることのできない人生へのあこがれと。

穂村弘が注釈する。「なんという美しい『キス』だろう。『おれたちが一生手に入れることのできない人生』とは、読者である我々の日常のような『人生』のことだ」


マザーランドの月 (SUPER!YA)
サリー・ガードナー『マザーランドの月 (SUPER!YA)』。おもっていた以上にヘクターと、語り手である「おれ」スタンディッシュ・トレッドウェルの信頼が深い。

おれは字が読めないし、書けない。
スタンディッシュ・トレッドウェルは、頭がよくない。
コナリー先生だけだ、スタンディッシュがみんなとちがうのは独創的だからよって言ってくれたのは。ヘクターにそのことを話すと、笑ってた。笑って、おれはすぐ気づいたけどね、って言った。

ヘクターは、ほかの男子がおれにちょっかい出すのを許さなかった。おかげで、拷問のような日々はむかし話になったって、おれは信じてた。

ああこんなにおさなく頼っていいのか、守っていいのかとおどろく。心臓だけだったちいさな、ちいさなころのことをおもいだして読みながら泣く。

「そうじゃない、スタンディッシュ。おれは信じてる」ヘクターがさえぎった。「おれたちが持ってる中でいちばんいいものは想像力だって、信じてる。そしておまえがそれをしこたま持ってるって」