大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

〈高度な情報処理能力を身につけてしまった我々は、テーマとは無関係な大量の情報が詰まった映像をこそ求めている〉【Documentary】

ワールドアトラス (幻冬舎文庫) 〈'88年から「ホットドッグ・プレス」に二年間連載されたものを、'90年9月に単行本として編集した。'97年、それをさらに文庫用に編み直したのが本書である〉
いとうせいこうワールドアトラス (幻冬舎文庫)』。みんなだいすき悪魔の辞典というやつ。ルナールの博物誌的な。


〈人間が自分と世界の関係を成立させるためのツールはたった2つしかない。地図と物語だ〉【Atlas】

ところが、現在日本にあるのは小刻みな「物語」ばかりである。タレントのスキャンダルには、ちょっとした性的異常の物語。流行のナイトクラブには、宇宙船不時着の物語。ロサンジェルスからは退廃とドラッグの物語。
毎日与えられる小さな物語が我々の頭を混乱させ、それら物語同士の位置関係を見えなくしてしまう。

別役実は『ジョバンニの父への旅』でこんなセリフを書いている。『いいか、ジョバンニ、父親というものがしなければいけないことは、すべて死んでゆくものに対して、死んでいいと言ってやることなんだ』〉【父】

『のんびり行こうよ、俺たちは』でなくてもいいのである。わざわざドロップ・アウトする必要もない。自分のスピードと生活が無理なく、キレイなお尻のようになめらかであればヒッピーなのだ。機械だって新しい自然だし、コンピュータは快楽だし、ビルの屋上から見る夕日だって大好きだ。昔ヒッピーだったオッサンに説教される筋合いなんてない。第一そういうオッサンこそが、当時のテーゼを商品にして売ってるんだから。我々'90年代のヒッピーの売り物はスピードだ。

       【Hippie】

〈閉じるほどに開く感覚。逆方向に迅速に走ってゆく意識。この矛盾が現在なのだ。
私を興奮させた9文字事件の『宇宙人へのメッセージだ』という言葉は、この文脈によってこそ読まれるべきだろう。親だの近所のおじさんだのにメッセージを送っても、どうもリアリティがないのだ。もっと遠くのものとコミュニケートしたい。素早く、遠く、閉じながら〉【Distance】
〈独り言いう人って気持ち悪い、という風潮があるが、独り言の半分は、あなたに向かったささやき声だ。それが自分に向かった言葉として聴けないとすれば、あなたも実は世界から他人を追い出しているのである〉【Whisper】


〈互いの情報を照合して恋人を探し、データ結婚をする。愛人バンクには好みの異性がストックされている。こうなると、データを前提にしないコミュニケーション、情報を無視した好意は野暮の骨頂だ。
すべての恋愛は野蛮である〉【Systematic】