とんねるず主演、森田芳光監督『そろばんずく』(1986)。
森田監督の映画には古典落語みたいなハナシと新作落語みたいなハナシがあるが、『そろばんずく』はもちろん後者。
あたりをやさしくつつむ円熟は、まだない。攻撃的な批評精神。それをひとは「わけがわからない」と言うのかもしれない。
『蒲田行進曲』みたいな映画。美しい。なにかを葬送しようとしている。
えがかれるのは二大広告代理店の争いと、合併工作と、政略結婚と。
そのラインが読めていればけっしてエキセントリックな映画ではない。
学生っぽく青臭い広告代理店ト社と、業界1位の体育会系ラ社。
ラ社が口にする「営業は、血だ!」。森田芳光の脚本は、軽妙といってしまえばそれまでだが、哲学的にコトバが展開していく。
「血」は選民として「良血」をもとめる。それは排除の論理だから「血も涙もない」。ラ社の血には血がかよってないとコトバのレベルで解けてしまう。
「おまえたちは、あたまはいいんだ! あとは体力だけだ!」
そうやってラ社を仕切るのが桜宮天神(小林薫)。狙っているのは広告代理店の統一、巨大化だ。それができればアメリカ大統領選挙を操作することだってできる。
対するト社の春日野(石橋貴明)と時津風(木梨憲武)はそこまでおおきくシビアではない。それがわるいわけでもない。ト社の社風は「会社は、愛だ」。概念としては「営業は、血」を上回っている。会社とか愛というものは営業とちがってあいまいなものだが。
イッセー尾形、三木のり平、小林桂樹、石立鉄男、財津和夫、ベンガル、渡辺徹、安田成美、名取裕子、浅野ゆう子ほか名だたるキャスティング皆に見せ場が用意されている。
クライマックスは遠山の金さんと大石内蔵助の対決。カーテンコールもある。
「ぼくたちは、会社のために愛を犠牲にしたくない!」