大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

〈(屋上の)(鍵)(ください)の手話は(鍵)のとき一瞬怖い顔になる〉  伊舎堂仁

トントングラム 新鋭短歌シリーズ

どこの海にもつながっていない海にもつながっている海がある

「気絶したことある?」ないよ「するべきよ」「キスが全然」「変わってくるわよ」

伊舎堂仁『トントングラム 新鋭短歌シリーズ』。胸とか脳にとどく短歌に出遇うとどこでいつ生まれたのかとすこし気になる。
そういうことと切り離して作品の強度と向きあうべきだとおもうけれども伊舎堂仁は1988年沖縄生まれ。大阪の大学を卒業している。

母さんがおなかを痛めて産んだ子はねんどでへびしか作りませんでした

アイコンの写真は親子 笑ってる こっち向いてる 子ども以外が

もうどこも動いてないねどうします うちに避妊具いるけど見にくる

消音の香取慎吾と消音の小堺一機がずっと笑ってる

左側死線を社用の乗用死で走る 対向死とすれちがう

好きですは好きなようにしたいですの略です君のことは好きです

それをするときのきみにはだれひとりいいかおしないみたいならしさ

緑でも赤でも黄色でも茶色でも青でも黒でもない鬼

黒板に夏と書いたのは誰ですか名乗り出るまではじめませんよ

歩きだと8年かかるらしいのでそのとき出てれば今ごろついてた

その人は代表作のない人できみを褒めたりけなしたりする

ぼくたちできのう作った国のことききたい まずねセラミックの切手

生まれたところやひふや目の色のおなじぼくらでうたう青空

海だけのページが卒業アルバムにあってそれからとじていません

着替え場はいっぱいだからと入ったトイレの個室の静けさが死

男ってアホだからさを言うときにそうは思ってないのが男

いいぞ、しろ しろしろしろサッカー少年しろしろ信号無視しろしろしろしろ

丸顔で黄色の警備員さんは話しかけるとお菓子をくれる

橋でキスして帰った日 母さんがばあちゃんの声でいってるねごと

おじいちゃん何をしてるのじいちゃんは漢字を見ながら漢字を書いてる

真っ暗でおわかりにくいでしょうけどここは海で あ 言い終わるまえに

言いつけを守り麦茶と水だけを飲んだり雑に舐めあったりの

血ではない 君らに網戸ごしでない夏を見せたくない 血ではない