大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

〈都市の隙間に生息する雑目ショーバイである。通りすがりの人が、冗談やオフザケで賽銭を投じ、ほんの少しの真面目や本気で、一縷の望みを託す。イワシとは、保証書なしの、シアワセのバラ売り、チープな幸せ屋なのである〉

新装版 東京イワシ頭 (講談社文庫)
事物を描写するのでなく、自身の文を装飾する昭和軽薄体の流れを汲む饒舌、戯作の語り口ゆえ読み通すのが大変だが、初回と後半はまじめでおもしろい。杉浦日向子新装版 東京イワシ頭 (講談社文庫)』。
イワシの頭も信心から。東京に跋扈するいかがわしい流行風俗に冷やかしがてら突撃取材する企画。被写体を冷笑する、という態度は時代遅れになりつつある。それは俎上に載せているようにみえてウワサの域をでない。どこにも連れていってくれない作物には不満足があるばかりだろう。
初回は「黒焼」。

「いわゆる健康食品の扱いですか?」
「私共は『しなもの』と呼んでいます」


1999年の人類滅亡を当てこんだモノや、新大久保のなまず料理「魚福」は完全になくなっている。


ホンダNSXと日産フィガロに試乗する回の杉浦日向子は機械ずきだから、大まじめ。
〈空気を圧迫して、ドアが閉められるや、たちまち外界の雑事が遠くに隔絶される。あ、も、昨日も明日も、どうでもいい。いつ迄も、どこ迄も、ずっと走ろ。外の世界なんか、いらない。スポーツカーは、超高性能忘却カプセルだ。NSXの忘却性能、合格〉
フィガロについては〈手作り風のレトロ調。「風」と「調」、限定抽選の「ママゴト」。一台まるごとのフェイクだ。フェイクを身にまとって、フェイクな恋愛をする。好きな筈、こりゃ江戸人のセンスだ〉。


女子プロレス
〈屋台骨を支えるスター選手は二十歳前後。同世代の女の子が、スネカジリでヴィトンのショルダー、シャネルのピアス、カルティエのリング、ティファニーのネックレスを揃えているのに比べれば、何と、幼く、可愛らしく、そして、ストイックな事か〉


〈渋谷にある古参の鯨料理屋K〉で食事をしたあとの文章が巧い。

のろのろと寝床へ潜り込む。薄っぺらなガーゼの夏掛け布団が、肌に温まる頃、鼻先に、くん、と、自分の体臭以外の異臭が立ち昇って来た。いつか、どこかで嗅いだ覚えがある。犬小屋の中の匂いに似ている。獣の巣穴の匂いかもしれない。これが、鯨の匂いなんだ。
その夜、私は鯨と同衾した。