大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

〈かつての絶対王者が自ら破滅していく姿をみんなが見て見ぬふりをした〉

チュベローズで待ってる AGE22 チュベローズで待ってる AGE32 加藤シゲアキ『チュベローズで待ってる』。2巻本。上巻は主人公22歳、雑誌に連載。下巻は10年の月日が経過、書き下ろし。上巻と下巻で毛色がちがうので、映画ならば2本つくるというような。
つぎからつぎへと事件が起こる。つながりはあまりない。この雑駁さに長編小説らしさを見ることもできる。執筆にまとまった時間を充てられず、短編を積みかさねていったのだと推測することも。
作詞家の書いたショートショートを連想した。球種が多い。加藤シゲアキの短編集や処女長編への興味が湧く。

亜夢は学年でいうと僕よりふたつ下で、九月に成人したばかりだった。あどけなさの残るその相貌は見ていて飽きなかった。発想や表現も独特で、話しているといつの間にか疲れが取れていたなんてことも少なくない。

今に満足しているわけじゃない。けれど今いる場所がどんどん心地よくなっている。

学生たちのはしゃぐ声を聞きながらタバコの煙を吸い込むと、自分の時間だけが止まっているような感覚になる。

地声のような率直さで書かれているとかんじるところがいくつもある。

そのIDは昨日までのものとは違うが、あまり違和感はなく、今日という日も今までとそれほど変わらない。似たような一日だった。

もしかしたらあれが最後の「幸せ」だったのかもしれない。

「で、ホストになってみて、君が知りたかったことはわかったのかね」
茶化すように僕は尋ね、コーヒーの入ったカップを彼に渡した。
「いや、全くっすね。やればやるほどわかんなくなっちゃいました」

上巻では「僕」のよこに亜夢。下巻ではユースケがそばにいる。ホストの世界の後輩だ。そういう部分を打ちだせば、バディとか、絆といった読みも可能になってくるけれど、書き手の資質だろう、ソロの匂いのほうがつよい。「僕」はまわりの人物を観察、批評するが、ユースケは〈わかんなくなっちゃいました〉だし、〈亜夢は昔から、ものごとをまっすぐ見すぎないことに長けていた〉。そういういくらか戦略的なぼんやりした鈍さ、あるいは不まじめな態度。これを主人公がもてば、またべつのおもしろい小説になるだろう。

彼の瞳に滲む攻撃性はあまりに純粋で、気を抜くと吸い込まれてしまいそうなほどだった。

「すんません、ちょっと眠くなったんで」
そう言ってタバコを消し、テーブルに突っ伏してユースケは寝てしまった。まるでテーブルに甘えるような姿勢で、彼の寝顔は幼かった。