ぼくはずっと バットは野球をするためにあるんだと思っていた。
投げられたボールを、
打つためにあるんだと…
でももしかしたら 逆かもしれない。
もともとは ボールじゃないものを たたいていたんじゃないか?
ゆうべ バットで殴り殺したはずの父が
居間で新聞を読み、お茶を飲んでいる。
物語というのは、なにかがなにかとつながるものなのだけれど、吉野朔実はぞっとするつなげかたをする。親切な作り手ではない。リアルが不意におとずれる。内田百閒の小説みたいだ。
無垢な兄弟。暴力を振るう父親。借金をかさねる親戚。はじまりはここから。