大野拓朗が見たくて、シアターオーブの『プロデューサーズ』に行く。甘やかな声と顔をもち、長身なのにどこか頼りないという魅力的な俳優だ。これからどんどん伸びていくのだろうと、テレビドラマ『ベビーシッター・ギン!』の善戦をみていたら、ホリプロをでて、ニューヨークに渡ってしまった。
そこにコロナや、BLM。肌でかんじることは多かったのではないか。
『プロデューサーズ』の演出は福田雄一。賛否両論あるひとである。今作はそれほど色をださなかったようだけれども、ミュージカルというものが、台詞の強度やリアリティをやや軽んじる。科白劇からすればミュージカルは「セリフとセリフの合間に、歌」だが、ミュージカルはときに「歌と歌のあいだに、セリフ」なのだ。そのセリフを説明的な、ただ進行のためのものとかんがえると、アドリブによって物語が壊れることに頓着しなくなる。
映画『プロデューサーズ』は終盤の法廷のばめんでレオがマックスを弁護する。ミュージカルなので、歌で。するとマックスが「レオ、きみがそんなに歌が上手いなんて知らなかったよ」と、初めて作品世界を俯瞰したメタな笑いを繰りだしてくる。ここまでずっと虚構に徹してきたからすごく可笑しい。登場人物たちの狂気から解放されてホッとするところでもある。
そういう、構成上の緊張を無視して、舞台上の動きや台詞をいじる笑いに走ったのは、福田組というよりもミュージカル俳優の感性だったろう。実際、好印象だったのはストレートプレイから来た佐藤二朗なのだ。
佐藤二朗が井上芳雄にいじられたのは、狂気の不足のせいではあるまい。
井上芳雄の小宇宙に、まわりは終始翻弄された。
キャスティングがとても良かった。木村達成のカルメン・ギアはすごく綺麗だし、パートナーのロジャー・デ・ブリを演じる吉野圭吾の包容力と、弱さ!
大野拓朗が今度でるのはなんだろう。
井上芳雄の『ダディ・ロング・レッグズ』はどんなだったろう。