ロドリゴ・グディノ監督『恐怖ノ黒洋館』(2012)。82分。原題は「The Last Will and Testament of Rosalind Leigh」――ロザリンド・リーの遺言。
老女ロザリンド・リーのモノローグではじまる。この女性がこの世を去っていることは、すぐにわかる。息子のレオンが、母の空き家にやってくる。
レオンは母と父を亡くした。新興宗教の集団自殺で。レオンだけは逃げた。生き延びた。
母の家は宗教観と死生観によってあつめられた奇妙な調度に満ちている。そこでなにかを視る、ということがえがかれはするのだけれど、マイナーな映画ではあるし、ラストまできちんと視聴しての感想もすくないからネタバレをすると「なにも起こらなかった物語」。ロザリンドという死者が独り、屋敷で悔いている話だった。
レオンはこの家にもどってきていないし、怪異に遭遇したり、調度品を売り払ったりもしていない。「そんなことを夢見もしたけれど、おまえは二度ともどってこなかった」という、にがくくるしい死者の一人称。これは親不孝者にはこたえる。観ていてつらい。
いわゆるホラーとしての、男性主人公の探索や、恋人らしき異性の存在もすべて老女の夢想なのだ。それを踏まえて観たほうが、この作品の価値はくっきりと、かがやくのではないか。
「特別だが、レオンに対して好意的でない像」など、ところどころにきらきらしたセリフやイメージが表れるけれど、それらを賞味するのは母の孤独を呑み干したあとのこと。