松本英子のエッセイ漫画『49歳、秘湯ひとり旅』を堪能。どんなフィクションにも書き手の実体験を伴ったリアリティは入りこんでいるだろうけど、そのうえで作家が透明になろうとするエンタメ指向もあり、エッセイでそれをやれば「ただのレポ」になってしまう。『49歳、秘湯ひとり旅』はひとり旅する「私」が自身の深いところに触れようとして、ところどころ重たい読み心地。すごく昂ぶる。
事物は精密。名産、土産物には好意的。他への優しさは身についたがじぶんのからだは衰えた。
そうだよなあ 間もなく初老に突入だものな 中年ですらなくなる
人生も大半が過ぎた
露天の景色。視界がひらけた瞬間の、心身の開放感。松本英子の描写は凄い。
私 思ってたの
こんな山奥の果ての むき出しの岩肌に囲まれて
裸を さらしたら
いつもひとりでいるのが好きな私も
内側に潜んでいるであろう荒涼を
ついにまざまざ感じだすんじゃないか――
旅は途中から、孤独というものが欠如した「私」の内奥を目ざしもする。
さみしさとどのように向きあうのか。どきどきしながら読んだ。