ポーラ・ヴォーゲル『ミネオラ・ツインズ 六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ』(訳・徐賀世子)。
訳者あとがき、解説(伊藤ゆかり)、年表や当時の人名録が付されるなど、親切なつくりになっている。戯曲そのものの短さもあるが。
伊藤ゆかりの解説が役に立つ。〈ヴォーゲルは、十七歳の時にレズビアンであることをカミングアウトした。高校で舞台監督を務めたのも、当時演出は男性の領域とされていると感じ、かといって、異性愛の女性のようには演技ができないのに、女性を演じて男性にあれこれ言われたら我慢できない、という思いからの必然的な選択だった〉。
〈手法に関しては、ほとんどの作品で非写実的手法が用いられ、演劇ならではの虚構性が強調される〉
マイラ 韻は古い。つまんない。死んだ。
ジム あのさ、俺、『路上』は読んだよ。ヒッピーのバイブル。
マイラ ホント?
ジム ああ。ハードカバーで。(マイラが感心する)
マイラ ネクタイ締めてる男にしては、センスいいね。
ジム マイラもね。マーナと全然似てない――(そこで気づく)――あ〜ヤバイ! マーナ! あ〜どうしよう、あ〜どうしよう――
マイラ オタオタしないで……落ち着いて。はい深呼吸。大丈夫。
ジム あ〜いやあ〜、マーナに何て言おう?
マイラ 聞かれなきゃ言わなきゃいいじゃん。聞かない、言わない。現代の結婚のルールでしょ。
マイラとマーラはミネオラで生まれ育った姉妹。登場人物の項でマーナは「『善良』な双子の片割れ。巨乳」とあり、マイラは「マーナを演じる役者が演じる。『邪悪』な双子の片割れ。二人は胸以外はそっくり」と。
姉妹を一人で演じるから、議論をしたり衝突したりということがない。さいごのさいごまですれちがったまま、じぶんの人生を全うするほかなく、自己に忠実ならば、思春期に表れた善良さや邪悪さが保たれるはずもない。生きかたを改めもするだろう。善良になることはもちろんある。保守的な「いい子」が邪悪になっていくことも。
正反対の人物と絡むことはほぼないから、疾走感が凄い。異性とのヤリマン期を経て積極的に中絶を支持するレズビアンとなるマイラのキャラクターが抜群。過激といえば過激だけれど、その逆を行くマーラのほうが抑圧されたぶんだけ危険である。