肝心なことが全然見えてないんだよね。
幽霊とかUFOとか見たことある? あたしはあるわよ。
(……)
たまには、ありえないものとか、見なさいよ。
「たとえば、いまそこで河童がウロウロしてるけど、どうせあんたには見えないんでしょ?」と、母(松坂慶子)に言われる沈丁花ハナメ(麻生久美子)。
河童とか、それより凄い怪異も「信じる/信じない」ではあるけれど、恋だってそう。恋する心も一つの怪異だ。
ハナメには母がだれかを愛したことも奇異ならば、そのあいても奇異。映画『蒲田行進曲』で松坂慶子と共演した風間杜夫の登場である。ここで風間が演じるのは銀ちゃんじゃあない。ヒッピーくずれのファッション、額は後退したが長髪で、中年肥り。若い客(相田翔子)のまえでは格好つけるが、二枚目を気取る容姿ではない。
このインチキ骨董屋をダミ声でゲスに演じることもできたはずだ。しかし風間杜夫は美声のロマンチストとして演った。このチョイスがじわじわ来る。『蒲田行進曲』の銀ちゃんのような浮わついた男の、堕ちつつある中年期。なにかを手離さないでいる。この男からハナメに引き継がれるもの。「人間は信じられないものも見えるからいいんだよ」
岩松了、村松利史、笹野高史、ふせえり、松重豊、温水洋一、堀部圭亮、江口のりこ、五月女ケイ子、石井聰亙(石井岳龍)などキャストを書き連ねていくだけでも気持良いけど、加瀬亮が担ったキャラクターも会心の出来。
電気工のパンク。名はガス。現場仕事のできる若い男で、狡く、ドライなところもある。それをハナメに責められたりもする。