大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

「おまえはじぶんが信じるものしか見れないからダメ。人間は信じられないものも見えるからいいんだよ」

インスタント沼

肝心なことが全然見えてないんだよね。

幽霊とかUFOとか見たことある? あたしはあるわよ。

 

(……)

 

たまには、ありえないものとか、見なさいよ。

「たとえば、いまそこで河童がウロウロしてるけど、どうせあんたには見えないんでしょ?」と、母(松坂慶子)に言われる沈丁花ハナメ(麻生久美子)。

2009年の映画『インスタント沼』。脚本・監督、三木聡

河童とか、それより凄い怪異も「信じる/信じない」ではあるけれど、恋だってそう。恋する心も一つの怪異だ。

ハナメには母がだれかを愛したことも奇異ならば、そのあいても奇異。映画『蒲田行進曲』で松坂慶子と共演した風間杜夫の登場である。ここで風間が演じるのは銀ちゃんじゃあない。ヒッピーくずれのファッション、額は後退したが長髪で、中年肥り。若い客(相田翔子)のまえでは格好つけるが、二枚目を気取る容姿ではない。

このインチキ骨董屋をダミ声でゲスに演じることもできたはずだ。しかし風間杜夫は美声のロマンチストとして演った。このチョイスがじわじわ来る。『蒲田行進曲』の銀ちゃんのような浮わついた男の、堕ちつつある中年期。なにかを手離さないでいる。この男からハナメに引き継がれるもの。「人間は信じられないものも見えるからいいんだよ」

岩松了村松利史笹野高史ふせえり松重豊温水洋一堀部圭亮江口のりこ五月女ケイ子石井聰亙石井岳龍)などキャストを書き連ねていくだけでも気持良いけど、加瀬亮が担ったキャラクターも会心の出来。

電気工のパンク。名はガス。現場仕事のできる若い男で、狡く、ドライなところもある。それをハナメに責められたりもする。