大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

〈此処を死場と定めたるなれば厭(い)やとて更に何方(いづかた)に行くべき〉  樋口一葉『わかれ道』

私は明日(あす)あの裏の移転(ひっこし)をするよ、余(あんま)りだしぬけだからさぞお前おどろくだらうね、私も少し不意なのでまだ本当とも思はれない、ともかく喜んでおくれ悪るい事では無いからと言ふに、本当か、本当か、と吉は呆(あき)れて、嘘では無いか串談(じょうだん)では無いか、そんな事を言つておどろかしてくれなくても宜(よ)い、己れはお前が居なくなつたら少しも面白い事は無くなつてしまふのだからそんな厭(い)やな戲言(じょうだん)は廃(よ)しにしておくれ、ゑゑつまらない事を言ふ人だと頭(かしら)をふるに、嘘では無いよ何時かお前が言つた通り上等の運が馬車に乗つて迎ひに来たといふ騒ぎだから彼処(あすこ)の裏には居られない、吉ちやんそのうちに糸織ぞろひを調(こしら)へて上るよと言へば、厭やだ、己れはそんな物は貰ひたく無い、お前その好い運といふはつまらぬ処へ行かうといふのでは無いか、(……)吉は我が身の潔白に比べて、お廃しよ、お廃しよ、断つておしまいなと言へば、困つたねとお京は立止まつて、それでも吉ちやん私は洗ひ張に倦(あ)きが来て、もうお妾でも何でも宜(よ)い、どうでこんなつまらないづくめだから、寧(いつ)その腐れ縮緬(ちりめん)着物で世を過ぐさうと思ふのさ。

葉衣企画 第8回公演『舞踊劇 わかれ道』。

構成・演出、井村昂。音楽、坂本弘道、栗木健(演奏はほかに、うえむらまさゆき、柳家小春、ほたかふみこ)。振付・衣裳・ステージング花柳輔礼乃。

公演リーフレットに〈昨年に続き、今年も歌手のおおたか静流さんをゲストにお迎えする予定でしたが、残念ながら9月に逝去されました。追悼の意も込めまして、昨年上演しましたオムニバス作品集「葉衣Ⅳ」より、「わかれ道」を独立した作品に再構成して、上演いたします〉と。

樋口一葉というと本郷のイメージもつよいけれど、生誕の地が内幸町。葉衣企画は定期的にここで一葉を舞台にしている。こまやかにアプデ、再構成された井村昂、花柳輔礼乃の「今」を観ることもできる。近代戦争の映像が挿入された辺りは先日井村昂が出演したブレイヴステップ『私の下町 母の写真』(作、福田善之)がつながってくる。

キャストは樋口一葉に、ししくら暁子(「歌う一葉」には、ほたかふみこ。「踊る一葉」に花柳輔礼乃)。お京、小林麻子。吉次、小林夢二。

ほかに井村昂、ワダタワー、竹林和輝、鳥羽宏至、小山利英、五十嵐恵美。花柳礼狸乃、花柳うさぎ、花柳獏、花柳礼子猿、花柳貂丸。

さいごにおおたか静流の映像も流れた。