大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

「美味しそう? 檜垣さん、性はケーキではありません」

唐組『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』観る。状況劇場での初演は1976年。

「おちょこの傘」がわからなくってタイトルから敷居が高いけれども、風で裏がえった傘、あれがおちょこであるらしい。それじゃあ空を飛ぶことができないので、傘の修繕、試作を繰りかえしているのが主人公のおちょこ(久保井研)。客の石川カナ(藤井由紀)を慕っているのだ。メリー・ポピンズのように空飛ぶ自由なひとでいてほしいと願っている。

おちょこの傘屋に居候しているのが、芸能事務所のマネージャーだった檜垣(稲荷卓央)。檜垣は、カナをさがしてこの町に来た。

 

唐十郎の書くものはミーハーでミクスチャーで、ゆえに詩のようなところがある。当て書きは即ち即興的。「国鉄総裁」と「桃屋のザーサイ」を掛けて笑いをとるのは、いまの俳優にはむずかしいだろうけど、久保井研は当時の台本を尊重した。えがかれる事件も、実際にあったもの。

状況劇場時代、出演俳優が豪華だったと聞く。登場すれば喝采なのだから、人物の入退場はおおらか。会話に参加せぬ舞台上の人物は、気絶したり寝たりしている。

 

ハムレット型とドン・キホーテ型。貫通行動。ロバチェフスキー空間。『メリー・ポピンズ』を『銀河鉄道の夜』へとつなげる詩想。

石川カナの、眠れるおちょこへの語りかけ。おちょこの、檜垣への語りかけ。終盤は『ハムレット』にとどまらないシェイクスピア四大悲劇の走馬灯のようでいて、さいごは生と死、清濁まるごと飛びたたせる。ここで観客は皆泣く。一幕劇としてはダレるところもあるのだが、テント芝居の祝祭性としては頂点かもしれない。