大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

2022-01-01から1年間の記事一覧

ひとつの場所の行間、余白。

『ショウ・マスト・ゴー・オン』。初演は1991年。脚本・演出、三谷幸喜。 代演がつづき、公演中止の日もでた令和版。配信も一度は中止になってからの、追加公演と、配信。 ワン・シチュエーションのコメディ。舞台となるのは「舞台の現場」。といって舞台上…

〈常識はどこまでいっても常識、詩にならないのです〉  藤田湘子

自然はまぎれもなく生きてうごいているから、その中から何かを発見するよろこびも、またかぎりがないんですね。それだから、一年はアッという間。しかも精神的にひじょうに充実した一年を過ごすことができて、五年と言い十年と言っても、けっして永い歳月と…

〈此処を死場と定めたるなれば厭(い)やとて更に何方(いづかた)に行くべき〉  樋口一葉『わかれ道』

私は明日(あす)あの裏の移転(ひっこし)をするよ、余(あんま)りだしぬけだからさぞお前おどろくだらうね、私も少し不意なのでまだ本当とも思はれない、ともかく喜んでおくれ悪るい事では無いからと言ふに、本当か、本当か、と吉は呆(あき)れて、嘘で…

「♪この晴れた土曜に、グチャな、グチャな、グチャなものを見に来てくれて……偉い」  近藤良平

近藤良平、黒田育世『私の恋人』観る。演出、振付は二人で。初演は2004年。 黒田育世のダンスはどこで観ても悲劇過ぎず、喜劇過ぎず、おもしろい。それがふしぎだったけれども、幾度も再演されてきたこの共演作で謎が解けた。プロレス頭だ。 キャッチーな近…

帰還と再会。あるいは、再会と帰還。

N.S.カールソン作、J.アルエゴとA.デューイ絵、『マリールイズ いえでする』。 マリールイズは、ちゃいろのマングースの おんなの子です。 さとうきびばたけのなかにある ちいさな かやぶきのうちに、 かあさんといっしょに すんでいます。 マリールイズは、…

「二人だと耐えられることが、一人だと、耐えきれなくなってくる」  『そして、飯島くんしかいなくなった』

BSプレミアム「プレミアムステージ」で『そして、飯島君しかいなくなった』(2000)観る。初めての(22年ぶりの)再放送とか。 演劇集団円による舞台。脚本は土屋理敬。演出、松井範雄。何をえがこうとしたか。冒頭のインタビューで土屋理敬は「告白」――島崎…

熱烈に愛される。期待される。自由の可能性。しかし、

オフィスコットーネ『加担者』観る。プロデューサー・綿貫凛、演出は稲葉賀恵。 作、フリードリヒ・デュレンマット(翻訳、増本浩子)。 デュレンマットには2021年9月の『物理学者たち』(ワタナベエンターテインメント主催。本多劇場)、2022年6月の『貴婦…

いつもどおりでないという、高揚と緊張感。

『侍BRASS 2022 《舷墻》』行く。澤田真人の代わりに浦井宏文が出演というのは知っていた。会場に着き、パンフレットをひらいて、「一部出演者・曲目変更のお知らせ」にエリック・ミヤシロが出ないと書かれていて、これはおどろいた。目当てにしてきたから。…

恋はケレン

サイモン・スティーヴンス作『ハイゼンベルク』。 75歳の男と、40代の女。出あった二人の距離が近づく。色恋を支えるのは純粋な動機ばかりではない。打算もあろう。それをあいてが容れてくれるか、また自身で認められるかどうか。そういう会話劇であったよう…

白石加代子の役名はカヨでもよかったんだと一寸夢想した。

KAATキッズ・プログラム2022『さいごの1つ前』観る。 目当ては白石加代子(1941年生)と久保井研(1962年生)の共演。作・演出は松井周(1972年生)。 ほかに出演者は薬丸翔(1990年生)、湯川ひな(2001年生)。 冒頭、映画を観ているカオル(白石加代子)…

〈古代エジプト語で墓は「永遠の家」であり、墓場は「永遠の町」である〉

〈霊魂について語るといっても、もちろん宗教にかかわるわけではなく、また、哲学的な問題に立入るわけでもない。ここで話題となるのは魂そのものではなく、魂の形である〉 多田智満子『魂の形について』。〈ニーチェが告げたように神が死んだのであるなら、…

「できますとも。ここは東京なんですもの」

ブレイヴステップ公演『私の下町(ダウンタウン) 母の写真』観る。 町のにぎわい、ひとびとの醸しだす活気。そういうものが演出され、演技をされて揺さぶられる。舞台の醍醐味は、小屋にいながらその天井をわすれる没入の時。奥行だってどこまでもひろがる…

汗を掻く 歯が欠ける 夏に跳ねる

『ザ少年倶楽部』、NHKホールにもどってくる。「みなみなサマー」と「未来SUNRISE」が聴ける回。心身共に愛しいのは佐藤龍我だけれど、那須雄登の体現するアイドル観も物凄くフィットする。キラキラ、といっても信号機の明滅みたいにキラキラキラキラキラキ…

開演13時、終演予定15時20分。押した。

『春風亭一之輔のドッサリまわるぜ 2022』、よみうりホール。 オープニングは私服姿で春風亭一之輔。これだけで会場が盛りあがる。 開口一番は春風亭与いち「金明竹」。 一之輔は「加賀の千代」「反対俥」。仲入りあって「百年目」。 「加賀の千代」はご隠居…

〈時々、自分の人生を「物」みたいに、客観的に考えるの〉  田村セツコ

イラストレーターとしてお仕事する前、私は銀行員だったの。周りの人はみんなすごく優しくて、でもイラストを仕事にしたいと思ったから、自分の希望で退職したの。 家族には、「愚痴は言いません。後悔しません。経済的負担はかけません」と誓って辞めたから…

「世界はわたしを娼婦にした。今度は、わたしが世界を娼婦にする」

シリーズ「声 議論、正論、極論、批判、対話…の物語 vol.3」『貴婦人の来訪』観る。初演は1956年。作、フリードリヒ・デュレンマット。 失業者あふれる町ギュレン。17歳のときにこの町をはなれた少女が、45年ぶりにもどってくる。富裕な貴婦人となって。この…

〈若い頃にお会いしていたらきっと喧嘩になったろう。そう考えると年を取るのも悪い事ではないのかもしれない〉

デビュー45周年、「夢幻紳士」シリーズは9年ぶりの刊行という刻の話題から沁みるものある。短篇という美しい形式によって養われた世界が、やわらかな奥行をみせる。 するどくなめらかな反復と螺旋。夢使いとして自他の想念に入りこむ。妖の裏を掻く。夢幻紳…

やんちゃなくろねこ、風をつくる。

『くろねこルーシー』(2012)。映画版は、テレビドラマの前日譚。陽の父・賢を主人公にしたメルヘン(猫はしゃべらない)。 迷信を信じ過ぎるために占い師として大成できない鴨志田賢(塚地武雅)。隣のブースの同業者(濱田マリ)にキャラを立てろと助言さ…

〈姉が血を吐く 妹が火吐く 謎の暗闇 瓶を吐く〉

演劇実験室◎万有引力『盲人書簡◎少年倶楽部篇』観る。高橋優太回。今村博、三俣遥河も存在感を増していた。表現や、自負はこの時代だからつよくなる。俳優よりももっとゲンミツに、万有引力という括り。ここに帰属することの徴。 森ようこ、山田桜子、内山日…

〈子馬はおじいさんにパカパカと鳴いてよびかけますが、おじいさんは起き上がる様子がありません〉

松尾スズキによる絵本『気づかいルーシー』(千倉書房)。 強烈。「気づかい」から連想されるような凪いだ話ではない。おじいさんの皮をかぶっておじいさんのふりをする、馬。それに気づかないふりをするルーシー。 あとがきで松尾スズキ、〈ルーシーと王子…

耐性がつく。視える力がつよくなる。

『ルームロンダリング』(2018)。ツタヤクリエイターズプログラム、2015年の準グランプリ企画。 事故物件を実話系でなく、ファンタジーとして構築している。分断されがちな短編集の如き霊たちをひとつのばしょにあつめるのも佳い。 劇中に登場する児童書と…

「美味しそう? 檜垣さん、性はケーキではありません」

唐組『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』観る。状況劇場での初演は1976年。 「おちょこの傘」がわからなくってタイトルから敷居が高いけれども、風で裏がえった傘、あれがおちょこであるらしい。それじゃあ空を飛ぶことができないので、傘の修繕、試作を繰…

夜のかがやき

中川英二郎、エリック・ミヤシロ、本田雅人の「SUPER BRASS STARS」が特別編成、サプライズもある『SUPER BRASS STARS XXL EDITION』。東京国際フォーラム ホールC。 中川英二郎(トロンボーン)、エリック・ミヤシロ(トランペット)、本田雅人(サクソフォ…

〈冬の木がきょねんのようには見えぬこと ほっとよろこんで ただすぎてゆく〉  今橋愛

永井 私がいちばん思ったのは「上がるから、下がる」んだなあということを、思うんですよね。なんか20年やってると、すっごいやる気あった人ほど、なんかに失望しちゃうと。 石川 あー、やめちゃうとか。 永井 離れちゃうとか。やっぱそういうことってあるん…

〈初期化された この 世界〉

倉持裕、作・演出『DOORS』(2021.5.29 世田谷パブリックシアター)。 出演は奈緒、伊藤万理華、早霧せいな、田村たがめ、菅原永二、今野浩喜。 平行世界を行き来するジュブナイル。岩波少年文庫のような。 はじまりは、雷雨の夜。陰惨に衝突する母子家庭。…

「永井荷風も永六輔もいつも寄席にいたでしょ。常に人混みの中にいないと見つけられないよ」  高田文夫

『散歩の達人』2022.5 。「俳優 安藤玉恵を育んだ西尾久の街」目当ての購入。大特集「都電荒川線さんぽ」と特集「街には笑いが必要だ!」の相性も良い。 安藤玉恵の地元は、三業地。「私の祖母は、阿部定さんを見たことがあるらしいんです」 玉恵 私、阿部定…

まだ見ぬ怪物を飼い馴らそうとする

『アンチポデス』観る。新国立劇場のシリーズ「『声』 議論、正論、極論、批判、対話…の物語 vol.1」として。 『アンチポデス』を書いたのはアニー・ベイカー。翻訳、小田島創志。演出、小川絵梨子。とある会議室で芸術的、財政的におおきく成功するためのブ…

「おまえはじぶんが信じるものしか見れないからダメ。人間は信じられないものも見えるからいいんだよ」

肝心なことが全然見えてないんだよね。 幽霊とかUFOとか見たことある? あたしはあるわよ。 (……) たまには、ありえないものとか、見なさいよ。 「たとえば、いまそこで河童がウロウロしてるけど、どうせあんたには見えないんでしょ?」と、母(松坂慶子)…

血だまりの(イマジナリー)フレンド

ジェームズ・ワン監督『マリグナント 狂暴な悪夢』(2021)。 さまざまな引用のなかでいちばんつよくかんじたのはウェス・クレイヴン。『エルム街の悪夢』『スクリーム』『壁の中に誰かがいる』……。襲ってくるのは人間的な身体能力と、憎悪。 スリラー、サス…

さいごは、東京大衆歌謡楽団。

「『二つ目物語』完成記念特別上映会」行く。 監督、林家しん平。上映前の進行は蝶花楼桃花。しん平師、喋れば飽きさせない。今作・柳家㐂三郎の演技と『落語物語』(2011)の柳家わさびの違いや、前座ぽっぽ→二つ目ぴっかりを経てしん平映画常連である蝶花…