大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

〈初期化された この 世界〉

倉持裕、作・演出『DOORS』(2021.5.29 世田谷パブリックシアター)。

出演は奈緒伊藤万理華早霧せいな田村たがめ菅原永二今野浩喜

平行世界を行き来するジュブナイル岩波少年文庫のような。

はじまりは、雷雨の夜。陰惨に衝突する母子家庭。いやな世界だからこそ、パラレルワールドに踏みこんでしまうのか。

さいしょに向こうへ行ったのは、少女・真知(奈緒)ではない。母親の美津子(早霧せいな)だ。それも、とりかえばや。向こうから来た美津子がこちらで母親のふりをしている。

大人になってもまだ根を下ろしている深い失意が現実を否認する。「蒸発」するような時代ではないけれど、「中年の危機」は近づいてきている。だから、こちらの美津子とあちらの美津子は入れ替わったようなのだ。

こちらとあちらはずいぶんと対照的である。こちらの美津子は元・女優。あちらの美津子は公務員といった具合に。

こちらの理々子(伊藤万理華)は女優志望。あちらの世界で女優志望なのは真知。進路も性格も引っくり返ったパラレルワールドなので皆、二役に苦闘している。

センスのいい脚本だが、書きこみはすくなく、あちらの世界がこちら以上にふわっとする。それでこちらの今野浩喜はチャーミングなのに、あちらはイマイチだなあとか。物足りなさをかんじるところも。

 

早霧せいなが抜群だった。演じ分けがみごと。そして綺麗。

あちらの世界に行ったこちらの美津子が、真知に、芸能界で生きていくうえの助言をする。女優志望の真知がここにいるとおもっているから。しかしそこにいるのは美津子を追ってきたこちらの真知だ。

美津子はそれと知らずに胸襟をひらいている。不器用な愛情のえがきかたのひとつ。