大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

〈夏休みよ さようなら 僕の少年よ さようなら〉

『三上博史 歌劇 私さえも、私自身がつくり出した一片の物語の主人公にすぎない』観る。 開場してすぐ、トイレと物販に行列ができる。そこへ現れ、徘徊する演劇実験室◉万有引力の俳優たち……。 おおきい劇場だから、ロビーがある。舞台とは異なる光のもと、か…

物語をじゃんじゃんと浴びて雪が止む

「新春邦楽舞台初め『琵琶楽名流大会』」訪れる。 土日はひとのすくない茅場町。ホールのある東京証券会館に華やかな着物姿があつまってくる。 正午開演、終わりは十八時。各人の持ち時間は十五分程度で、十五時に一〇分の休憩あり。もちろん全て観る必要は…

「ああ、あたしが手を触れるものは、何もかも滑稽で、下卑たものになっちまうのね」

劇団新人会『ヘッダ・ガーブレル』観る。上野ストアハウス。 新人会といっても第1回公演は1954年。俳優座から派生した新劇のユニットであり、今回演出にまわった前田昌明は1932年生まれ。91歳だ。 主演の萩原萠と、今回出演はないが永野和宏の3名で劇団新…

〈水に流すも江戸育ち〉

大きい呉服店はデパートになり、そのうち駐車場が不可欠のものとなった。都電のチンチン電車が姿を消し、歩行者天国が案出され、日本橋界隈はますます美々しい商店街となった。 安野光雅『黄金街道』。巻頭、古今亭志ん生の「黄金餅」が収められ、安野光雅の…

〈私は昭和二年生れの五十八歳だが、いわゆる少年時代、受験のための勉強に追われたし、私以外の少年、少女も同様だった〉  吉村昭

私の住む町で耳にできる楽器と言えば、三味線、琴、尺八程度だが、山の手の住宅街を歩いていて初めてピアノの音をきいた時には、思わず立ちつくした。 吉村昭のエッセイ『東京の下町』(絵・永田力)。幼年期の不安と感激がやわらかなままのこっている。その…

アトリエ乾電池 別役実

劇団東京乾電池『小さな家と五人の紳士』観る。別役実、作。演出は柄本明。 男1(矢戸一平)と男2(川崎勇人)、舞台度胸はあるけれど不器用で、人間臭い。満点の演技ではないが、そのぶんだけ演出家がどのような演出をしているのかすこしわかったような気…

4年ぶり。吉祥寺

『吉祥寺寄席』第58回「おめでた芸で、笑って祝う4年ぶりの再開!」行く。 演目は春風亭三朝「松曳き」、翁家和助「太神楽 おめでた芸を満喫」。仲入あって立川龍志「寝床」。 「松曳き」は“主従の粗忽”といわれるように殿様がそそっかしければ、家老の三太…

胡弓 高橋翠秋 紀尾井町

『高橋翠秋・胡弓の栞』第十三回。パンフレットに〈この度は平成十年に催しました初リサイタルと奇しくも創作を除いて同じ番組が並びました〉とある。副題は「明日へ繋ぐ」。 古曲「千鳥の曲」 本曲「鶴の巣ごもり」 創作「蝶 『荘子』による」 創作「月の傾…

失われた「鬼」を求めて

【小松】都は富がある場所というふうに農村から見られているし、男をあげる場所、都市というのはだめな人間でも変身できる場所であるとも見られている。 1984年、朝日出版社のレクチャー・ブック・シリーズの一冊として刊行された『他界をワープする――民俗社…

「残る者も 一つ所におられん者もおる それだけのこっちゃ」

坂上暁仁『神田ごくら町職人ばなし』。ナレーションや説明台詞に頼らず、絵によって見せる。第1巻の前半は、「コミック乱」掲載の一話完結型。ミニ番組のくっきりとした切れ味で「桶職人」「刀鍛冶」「紺屋」「畳刺し」。畳刺し以外の職人は女性だ。ページ…

アトリエ乾電池の充実。

劇団東京乾電池『牛山ホテル』観る。作・岸田國士、演出・柄本明。 どえらいものを観た。緞帳におおきく「仏領印度支那のある港 九月の末 雨期に入らうとする前」とさいしょのト書が縫いつけてある。リーフレットにはこれまたおおきく岸田國士の言葉が印刷さ…

レオとルミとダーウィンと。バズとジェイとニースと。

『ダーウィン・ヤング 悪の起源』(演出・末満健一)観る。主演はWキャスト。大東立樹のほうを。 九つに階級分けされた街。60年前の暴動、あるいは革命がいまも話題になる。舞台は、200年続く寄宿学校。学校のそとでは、謎の死を遂げた少年の30回目の追悼式…

「僕はね、あの女と結婚してもいいと思つてゐるんです。しかし、さうすると、あの女が可哀想ですよ。僕は、半年経たないうちに、あの女を棄ててしまふでせう」

岸田國士「『歳月』前記」という短文には、つぎのようにある。 「牛山ホテル」は昭和三年十二月、中央公論に書いたもので、天草の方言は友人のH君を煩はしてやつと恰好をつけた。 読みづらいといふ批難をあちこちから受けたが、我慢して読んでくれた人から…

「君、これは音楽だよ。日常ではないんだ。音楽の中に定価なんて日常用品が入りこんでいいものだろうか」  『ガラスの少尉』

唐十郎『唐版 滝の白糸 他二篇』。収められているのは表題作と、「由比正雪」「ガラスの少尉」。 銀メガネ あたしは異化の旅を恐れ気もなく志していたのかもしれない。袋小路に追いつめた者達が、その風情を異口同音にののしった時、あたしは異化のほうきに…

「一晩で女性は堕落しますよ」

唐組・第71回公演『透明人間』。紅テント、靴を脱いでの桟敷席。観客ぎっしり。 テント芝居はプロレス観戦に似て、舞台に上がる人物たちに先ず感動する。『透明人間』の初演は1990年だから、しょうゆ顔ソース顔なんて言葉もでてくる。 岸田國士戯曲賞を『少…

「あなたとの、考える日々は、私には限りなく楽しかった。そうして、それを続けたかった」  魚怪先生

扉座『Kappa 〜中島敦の「わが西遊記」より〜』見る。脚本、横内謙介。 「夢」や「理想」という遙かで、みずみずしいものへの志向が中島敦にも横内謙介にもある。だからもちろん相性は好い。 横内謙介にとっての「夢」は演劇にあり、舞台をとおして語られる…

第一期 B機関 ファイナル公演『毛皮のマリー』観る。 主宰の点滅はリーフレットの挨拶を、天正遣欧少年使節団の話から始める。 備忘のために全文引用しておく。 天正遣欧少年使節団は二年の歳月と命をかけて欧州に渡り キリスト教の洗礼を受けた 同時期、同…

どんなにものぐさになってもこれだけは映画館で

『嘘八百 なにわ夢の陣』観る。監督、武正晴。脚本は今井雅子と足立紳。 お正月映画として定着しつつある三作目、すでに関係は構築できているので物語がぐんぐんうごく。 冒頭は、麿赤兒の紙芝居。こんなところから嬉しい。そこで語られる太閤秀吉のお宝にあ…

止まらないで 止まらないでよ 140人

『ジャニーズカウントダウン 2022→2023』。 Hey! Say! JUMP「ファンファーレ!」(2019)からスタート。15周年ということもあるけれど、つづくなにわ男子「初心LOVE」(2021)とともにキラキラ、王道のアイドル感が嬉しい。 となればSnow Man。「ブラザービ…

ひとつの場所の行間、余白。

『ショウ・マスト・ゴー・オン』。初演は1991年。脚本・演出、三谷幸喜。 代演がつづき、公演中止の日もでた令和版。配信も一度は中止になってからの、追加公演と、配信。 ワン・シチュエーションのコメディ。舞台となるのは「舞台の現場」。といって舞台上…

〈常識はどこまでいっても常識、詩にならないのです〉  藤田湘子

自然はまぎれもなく生きてうごいているから、その中から何かを発見するよろこびも、またかぎりがないんですね。それだから、一年はアッという間。しかも精神的にひじょうに充実した一年を過ごすことができて、五年と言い十年と言っても、けっして永い歳月と…

〈此処を死場と定めたるなれば厭(い)やとて更に何方(いづかた)に行くべき〉  樋口一葉『わかれ道』

私は明日(あす)あの裏の移転(ひっこし)をするよ、余(あんま)りだしぬけだからさぞお前おどろくだらうね、私も少し不意なのでまだ本当とも思はれない、ともかく喜んでおくれ悪るい事では無いからと言ふに、本当か、本当か、と吉は呆(あき)れて、嘘で…

「♪この晴れた土曜に、グチャな、グチャな、グチャなものを見に来てくれて……偉い」  近藤良平

近藤良平、黒田育世『私の恋人』観る。演出、振付は二人で。初演は2004年。 黒田育世のダンスはどこで観ても悲劇過ぎず、喜劇過ぎず、おもしろい。それがふしぎだったけれども、幾度も再演されてきたこの共演作で謎が解けた。プロレス頭だ。 キャッチーな近…

帰還と再会。あるいは、再会と帰還。

N.S.カールソン作、J.アルエゴとA.デューイ絵、『マリールイズ いえでする』。 マリールイズは、ちゃいろのマングースの おんなの子です。 さとうきびばたけのなかにある ちいさな かやぶきのうちに、 かあさんといっしょに すんでいます。 マリールイズは、…

「二人だと耐えられることが、一人だと、耐えきれなくなってくる」  『そして、飯島くんしかいなくなった』

BSプレミアム「プレミアムステージ」で『そして、飯島君しかいなくなった』(2000)観る。初めての(22年ぶりの)再放送とか。 演劇集団円による舞台。脚本は土屋理敬。演出、松井範雄。何をえがこうとしたか。冒頭のインタビューで土屋理敬は「告白」――島崎…

熱烈に愛される。期待される。自由の可能性。しかし、

オフィスコットーネ『加担者』観る。プロデューサー・綿貫凛、演出は稲葉賀恵。 作、フリードリヒ・デュレンマット(翻訳、増本浩子)。 デュレンマットには2021年9月の『物理学者たち』(ワタナベエンターテインメント主催。本多劇場)、2022年6月の『貴婦…

いつもどおりでないという、高揚と緊張感。

『侍BRASS 2022 《舷墻》』行く。澤田真人の代わりに浦井宏文が出演というのは知っていた。会場に着き、パンフレットをひらいて、「一部出演者・曲目変更のお知らせ」にエリック・ミヤシロが出ないと書かれていて、これはおどろいた。目当てにしてきたから。…

恋はケレン

サイモン・スティーヴンス作『ハイゼンベルク』。 75歳の男と、40代の女。出あった二人の距離が近づく。色恋を支えるのは純粋な動機ばかりではない。打算もあろう。それをあいてが容れてくれるか、また自身で認められるかどうか。そういう会話劇であったよう…

白石加代子の役名はカヨでもよかったんだと一寸夢想した。

KAATキッズ・プログラム2022『さいごの1つ前』観る。 目当ては白石加代子(1941年生)と久保井研(1962年生)の共演。作・演出は松井周(1972年生)。 ほかに出演者は薬丸翔(1990年生)、湯川ひな(2001年生)。 冒頭、映画を観ているカオル(白石加代子)…

〈古代エジプト語で墓は「永遠の家」であり、墓場は「永遠の町」である〉

〈霊魂について語るといっても、もちろん宗教にかかわるわけではなく、また、哲学的な問題に立入るわけでもない。ここで話題となるのは魂そのものではなく、魂の形である〉 多田智満子『魂の形について』。〈ニーチェが告げたように神が死んだのであるなら、…