どんなにものぐさになってもこれだけは映画館で
『嘘八百 なにわ夢の陣』観る。監督、武正晴。脚本は今井雅子と足立紳。
お正月映画として定着しつつある三作目、すでに関係は構築できているので物語がぐんぐんうごく。
冒頭は、麿赤兒の紙芝居。こんなところから嬉しい。そこで語られる太閤秀吉のお宝にあこがれ絵描きとなったTAIKOHを演ったのが安田章大。かれの作品を売りまくる企業の代表に中村ゆり。凄い色気だが清潔感ある二人の関係を類推して観る。
ほかにも松尾諭、升毅、高田聖子、笹野高史といったクセ者たちがあつまって、レギュラー陣の森川葵、前野朋哉、吹越満、塚地武雅らと絡むのも楽しみだった。
TAIKHOはスランプに陥っている。かれのために秀吉のお宝が欲しい寧々(中村ゆり)は、古美術店主・小池則夫(中井貴一)が総合プロデューサーを務める「大坂秀吉博」にぶつけるかたちで「TAIKHO秀吉博」を企画する。陶芸家・野田佐輔(佐々木蔵之介)に贋作を依頼。野田の獲得戦となる。
大胆な脚本、達者な俳優たち。パンフレットは充実していた。
武正晴監督によると「総勢二十三人のクライマックスは、カメラの台数を増やして長回しで撮りました。リハーサルはせず、テストだけ。笹野高史さんが突然歌い出したり、友近さんがいきなり声をかけてきたり。中井さんも内心困惑したと思いますけど(笑)、そこを芝居で返しますからね。僕も俳優たちに動きの変更など個別に変化球を入れましたが、全員が見事に合わせてきました。これほどの手練れが揃っているなら、即興の芝居の方が面白くなるような気がします」。
脚本の今井雅子が〈知恵は掛け合わせると、複利で膨らむ。「秀吉博を二つにしては?」は足立さんのアイデアだ。秀吉博VS. 骨董コンビではなく、則夫と佐輔を別陣営に引き離して対立させる発想に膝を打った。そう言えば、このコンビ、出会ったときは相手を出し抜いて一攫千金を企んでいたのだ〉といった具合にあれこれ内幕をおしえてくれる。
作陶協力・指導/プロット協力の壇上尚亮、歴史監修・跡部信のコラムもおもしろい。今作は土とガラスが一体となった器が登場する。それぞれの観点からガラスを語る。
中井貴一は非常に前向き。「これからは“前に進むための夢”みたいなものを持っていこう、と。せっかくこの仕事をさせてもらっているのだから、こんな映画を作りたい、こんな役を演じたいというような、“夢を作る夢”を持っていきたいですね」