岸田國士「『歳月』前記」という短文には、つぎのようにある。 「牛山ホテル」は昭和三年十二月、中央公論に書いたもので、天草の方言は友人のＨ君を煩はしてやつと恰好をつけた。 読みづらいといふ批難をあちこちから受けたが、我慢して読んでくれた人から…

唐十郎『唐版 滝の白糸 他二篇』。収められているのは表題作と、「由比正雪」「ガラスの少尉」。 銀メガネ あたしは異化の旅を恐れ気もなく志していたのかもしれない。袋小路に追いつめた者達が、その風情を異口同音にののしった時、あたしは異化のほうきに…

2015年の佐々木蔵之介一人芝居『マクベス』に合わせて刊行された『動く森――スコットランド「マクベス」紀行』（扶桑社）。これが、マクベスの副読本としてじつに効く。 キャプションや脚注もぜんぶ、佐々木蔵之介が書いたのではないかとおもわせてくれる一人…

どこへ逃げたら？ 何も悪いことをした覚えはない。いいえ、この世に生きているのだ、ここでは、悪いことをして、かえって賞（ほ）められ、よいことをして、危ない目にあい、ばか呼ばわりもされかねない、そうだとすれば、悪いことをした覚えはないなどと、所…

ポーラ・ヴォーゲル『ミネオラ・ツインズ 六場、四つの夢、（最低）六つのウィッグからなるコメディ』（訳・徐賀世子）。 訳者あとがき、解説（伊藤ゆかり）、年表や当時の人名録が付されるなど、親切なつくりになっている。戯曲そのものの短さもあるが。 伊…

『WOW! いきなり本読み！』#１ 。 脚本・演出は岩井秀人。今回の本である「ごっちん」にぶっつけで挑んだのは水川あさみ、上白石萌歌、皆川猿時。 台本を与えられ、指示を受け、意図を汲み、演じる。一人で何役も掛け持ちしたり、ばめんが変わればちがう役を…

『愚者には見えないラ・マンチャの王様の裸』観る。扉座「10knocks その扉を叩き続けろ」の第８夜。初演は、1991年。 横内謙介がこの戯曲を執筆しているとき、世界は湾岸戦争だった。今回のプログラムには中東へ単身乗りこんだアントニオ猪木議員のこと、公…

「ナショナル・シアター・ライブ」の『アントニーとクレオパトラ』（2018）、二人の死が語られるラストを冒頭にもってきたので、おどろいた。そういういじりかたを、予想していなかった。 『アントニーとクレオパトラ』が書かれたのは四代悲劇のあと、比較的…

「はじめに」と「おわりに」が率直だと嬉しい。まちがいなく心にのこる読書となる。 小川絵梨子『シェイクスピア 愛の言葉』。対訳の、引用集だから「はじめに」「おわりに」を紹介すると魅力のすべてをならべてしまうようなものだけれども、それくらいで褪…

ナショナル・シアター・ライブ『マクベス』観る。冒頭に制作者の解説映像あり。 もともとの舞台は11世紀。「超自然的な力を信じた時代」である。設定はそこから近未来へと変わる。 現代のイギリスがかかえる問題をかんがえると欧州連合、多民族、他宗教、経…

舞台のチケットと縁なく、ときに主演の松田龍平を想いながら読む。松田龍平が宮沢賢治というのは大胆なイケメン化のようにもおもうけど、茫洋としたかなしみはあんがいぴたりと合ったのかもしれない。 井上ひさし『イーハトーボの劇列車』。前口上に、こうあ…

井上ひさし『化粧』。収められているのは表題作と、「芭蕉通夜舟」。どちらも一人芝居のための戯曲。 井上ひさしの戯曲はハッキリしている。観客という「受け手」にとっても、俳優なる「受け手」に対しても。 「化粧」は、はじめのト書のなかに〈彼女自身が…