「あの映画
少し前の時代に作られてたら違うラストになっていたとなっていたと思うんですよ
その狭間に
自分はいるんだなあと思ってじーんとしましたね」
ゆざきさかおみ『はいらなくても、いいじゃないか』。初出は2020年。
カミングアウトしていないクローゼットのトーマと、自覚的で社会派のヒロ。ゲイ映画のレイトショーでたまたま出会い、意気投合する。そういう目的ではなくて、映画の内容もわからず席を取ったトーマの天然、偶然性が佳い。
トーマは〈クローゼットでコミュニティにも馴染めなかった このままずっとコンプレックスを抱えて生きていくんだと思っていた〉。
性愛をセンシティブなこととしてじつに教育的、教養主義的なのに(ゆえに?)擦れ違いが起こってしまう。ギクシャクしたタイミングでトーマにもヒロにも《誘惑者》らしきものが現れる。かれらはどこまでよろめいてしまうのか、というスリルもしっかりあった。
ヒロの独白、〈「腕がはいるんだから余裕っしょ」 僕は甘かったのか…自分の可能性を過信しすぎていたのか…?〉が可笑しい。
どんな物語も随筆的な感慨が読みどころなのかもしれない。