大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

2022-01-01から1年間の記事一覧

〈そこからわずか数手で形勢は非情にも傾きはじめる 将棋とは逆転のゲーム――〉

南Q太『ひらけ駒!』第3巻。 「やだ――ちょっとそこ引かないでくれる べつに若い子見に行ってるわけじゃないのよ」 「あたしは若い子 見に行ってるよ(キッパリ)」 女子アマ団体戦。おとなのチームとこどものチームが対戦する雑多。おひるごはんをたべなが…

「宮殿のことパレスっていうでしょ」「だからパレスサイドビルなのね」

南Q太『ひらけ駒!』第2巻。 「今日の棋譜 書いておいたら よかったかな〜〜 一応道場でも 相手の人に ことわったら 棋譜書いても いいんだって」 「羽生さんも 深浦さんも 小学生で 書いてた」初めての棋譜。こどもの夜の熱中。 「考えてもみろ どんな奴で…

余白がある。軽快。

南Q太『ひらけ駒!』第1巻。母と子。将棋にハマる。 天才の物語でなく、読みやすい。なにかを好きになる。その衝動の素直さ。ねむる子のまわりにひろがるたくさんの将棋の本。エッセイや絵本のような慈しみ深い描写が佳い。 子の物語だから礼儀正しいのも美…

〈たくさんのおんなのひとがいるなかで わたしをみつけてくれてありがとう〉  今橋愛

穂村弘『ぼくの短歌ノート』で知った今橋愛の歌が良かった。 とりにくのような せっけん使ってる わたしのくらしは えいがに ならない それで、電子書籍で本をさがした。むかし歌集はすぐ品切れになって手が届かなくなったりしたが、だいぶ時代は変わった。 …

〈柔道の受け身練習目を閉じて音だけ聞いていたら海です〉  小坂井大輔

ずっとトイレに置いてある。うそうそ、電子書籍で持ってる。 小坂井大輔の歌集『平和園に帰ろうよ』。暴力の歌もあればかわいいの歌もある。 値札見るまでは運命かもとさえ思ったセーターさっと手放す 白葱を噛んだらぎゅるっと飛び出して来たんだ闇のような…

するどさのとれた愛情

マイテ・アルベルディ監督『83歳のやさしいスパイ』(2020)。ほどほどにお節介な、それだけに溜めのあるドラマは生まれにくい、隣人愛あふれる映画を観たくて。 89分。尺も良い。登場人物たちは若者でないから「挫折した」とか「失った」といった断定よりは…

対立、断片化していく世界のこと。(それを「男」と「女」で説明すること)

シス・カンパニー公演『奇蹟 miracle one-way ticket』観る。1時間42分。 北村想によるシャーロック・ホームズのパスティーシュ。 人物と、場所が用意される。事件と出遭い、解決する。平易な構造を埋めていくのは衒学的あるいは雑学的な饒舌と、メタな社会…

〈這うようにして創り続けて来た作品と何度でも這いつくばって〉  黒田育世

『黒田育世 再演譚 vol.1』行く。演目は「病める舞姫」「春の祭典」。 ソロ作品「病める舞姫」は2018年の初演のかたちそのままに、鈴木ユキオが踊る。劇場リーフレットで黒田育世は〈同じ形で踊って下さるのをじっと見つめて、その差異から迷路の理由を学び…

鰍沢

第4回『三遊亭楽八独演会』。訪れて、江戸東京博物館が4月から休館に入ると知る。 演目は三遊亭楽八「千早振る」、春風亭いっ休「初天神」、楽八「宮戸川」。仲入りあって楽八「鰍沢」。 「鰍沢」の花魁だったお熊、「宮戸川」の若いお花。異なるタイプの女…

イチゴではなく

劇団 山の手事情社 ニュージェネレーション公演『ほんのりレモン風味』観る。構成・演出は川村岳、名越未央。監修、安田雅弘。 〈今回出てくる登場人物のキャラクター、ストーリー、セリフなどは、山の手事情社の俳優育成法《山の手メソッド》を用いた稽古に…

現場仕事と恋物語

『大怪獣のあとしまつ』観る。 雨音ユキノ(土屋太鳳)が元カレの帯刀アラタ(山田涼介)をいまも想っている。冒頭、同窓会のばめんで恋愛映画であることが示されて、わなないた。 脚本、監督は三木聡。ふざけ散らかしているようでいて、まじめな愛が発露す…

(――夏休みの思い出はバイトと部活のフルコース! あっという間に溶けていった)

じゃのめ『黄昏アウトフォーカス overlap』。続編、番外編。「恋色ソフトフォーカス」「夜の空に光るもの」など。『黄昏アウトフォーカス』の「ドラマCDアフレコルポ」や『残像スローモーション』の「プロローグ」も。 真央と寿が夜に散歩をするだけの「夜の…

「こうやって何回も変更を重ねて 台本は出来上がるんですよ」

じゃのめ『黄昏アウトフォーカス』。高校の、映画製作部。 入寮初日 寒い春 初めまして よろしく と言った 俺の手を 取りもしないで 「…どうも」 冷たい目が 近づくな と 完全に閉じてた キャメラ担当の土屋真央。同室の大友寿がゲイで、付かず離れず、詮索…

「あんたがいちばん謝らんならん相手はもうこの世におらん」

崔哲浩の脚本・監督・出演映画『北風アウトサイダー』観る。 崔哲浩は在日三世だが、物語の匂いは二世のもの。オモニへの思慕だろうか。あくまで泥臭く、野心と感傷をナイマゼにした作りが良い。素直に進展してきた問題でもないのだから。 個人のエゴよりも…

〈虫も 人も 皆うつくし〉

我妻恵美子を観たくて東京文化会館 小ホール。舞踏の摂取。非言語的な。性差のない。社会生活とは異なるテンポを欲して。 「シアター・デビュー・プログラム 『虫めづる姫君』」観る。クラシック音楽と、舞踏。しかも日本の古典文学。それぞれのしっかりとし…

「人間には、二通りあるの。……いなくなるといなくなるタイプと、いなくなってもいるタイプ」

三木聡脚本・監督『図鑑に載ってない虫』(2007)。赤塚不二夫みのある『真夜中のカーボーイ』か。悪ふざけの連続のようで、急に泣かせる。 編集長(水野美紀)に命じられ、臨死体験ルポを書くべく「死にモドキ」探しをはじめる「俺」(伊勢谷友介)。相棒と…

YUJIRO IN EUROPE

映画では、皆さんの皮膚に、寒暖、つまり、冷たい温ッたかいの感じを差し上げることはできませんが、ええそれは、色を見て頂ければ、わかると思います。 画面がいきなりバーン! と変わると、近代設計の粋(すい)を凝らした、それこそ、本当にイカす道路が…

「日本では森は“自然”を象徴するが、ヨーロッパでは“超自然”を象徴しているのである」

2015年の佐々木蔵之介一人芝居『マクベス』に合わせて刊行された『動く森――スコットランド「マクベス」紀行』(扶桑社)。これが、マクベスの副読本としてじつに効く。 キャプションや脚注もぜんぶ、佐々木蔵之介が書いたのではないかとおもわせてくれる一人…

女であることを隠していないがいまは男として生きる。

坂本龍馬 ええか! 総司がいつまでもオトコの格好して、刀を振り回しとる時代は終わりにせないかんのじゃ! 原作、つかこうへい。映画『幕末純情伝』(1991)。脚本・監督薬師寺光幸。 公開時は『ぼくらの七日間戦争2』との二本立てだったらしい。それで編…

人間の憎悪のゆくえ。

『ミネオラ・ツインズ』観る。ずいぶんまじめな演出だった。戯曲の迫力、疾走感、喜劇性……。既成の価値観に対する哄笑はうすれていた。 えがかれる物語世界の、歴史や思想にこだわったまま生硬で、演劇のもつ遊び、匿名/透明性、普遍的衝動をなかなか得られ…

(一人芝居の頂点)

アンドリュー・ゴールドバーグ演出『マクベス』(2015)。主演、佐々木蔵之介。一人で二十役。所は、病棟。女性医師に大西多摩恵。看護師、由利昌也。 精神を病んだ者が、すでにある世界を演じ、つづける(ここでは『マクベス』)趣向というか状態はありふれ…

「あーまあ蜆だから、漏れても淡水ですしね」

『おいハンサム!!』、第2話。 商談のときに、鞄のなかのタッパーの蜆がコトコト、コトコト活動している。 そのために、却って冷静な判断ができたり、「ちいさな命か……」と回想したり。 子らの幼少時ばかりではない。そのばめんに顔をだすのは、ちいさな蜘蛛…

「わたしをだましたのね? ひどい子ね」

ジョン・ポルソン監督『ハイド・アンド・シーク』(2005)。“イマジナリーフレンド”をめぐる娘と父の物語。出演はダコタ・ファニングとロバート・デ・ニーロ。 『裏窓』『シャイニング』『エクソシスト』など、引用による誘導が佳い。殺人事件が起こるのかな…

〈腑に落ちない日もあったけど〉

『連続ドキュメンタリー RIDE ON TIME』Season 4「なにわ男子 エピソード2 三年目の奇跡」。 正直、言うと。おれ「Time View」書いたの、あの、それこそその7人の想いもあって、というのもありますけど、みんなと泣きながら歌いたくて書きましたから。 よ…

「親方。あっしは真ッ直(つ)ぐを貫いてますんで」  亥之吉

スペシャルドラマ『必殺仕事人 2022』。 貧しい育ちの亥之吉(岸優太)と才三(西畑大吾)兄弟。幼なじみの美代(高月彩良)。かれらに優しかっただんご屋の夫婦(小林隆、杉田かおる)。 亥之吉と才三は正義感からバンクシーならぬ「晩来(ばんくる)」を名…

「女たちよ!」  『おいハンサム!!』

『おいハンサム!!』、脚本・演出、山口雅俊。イイ。 原作は伊藤理佐の『おいピータン!!』『渡る世間はオヤジばかり』その他。これがほどよくミックスされて、練られたファミリーロマンスになっている。 キャストも抜群。吉田鋼太郎、MEGUMI。娘たちに木南晴…

ジョエル・コーエンの『マクベス』。

どこへ逃げたら? 何も悪いことをした覚えはない。いいえ、この世に生きているのだ、ここでは、悪いことをして、かえって賞(ほ)められ、よいことをして、危ない目にあい、ばか呼ばわりもされかねない、そうだとすれば、悪いことをした覚えはないなどと、所…

「だからってすごすごと、脇役になれって? 冗談じゃないわよ、わたしはね、どこにでもいる主婦とはちがうの、特別な人間なの」

「夫人。あなたには家庭がある。ただの主婦に、もどればいい」 「それがもの足りないから……踊ってたのよ」 「大阪御ゑん祭 『夫人マクベス』」(2019)。マクベス夫人としての近藤芳正を軸に、起承転結、4つのユニットのオムニバス。 【起】テノヒラサイズ「…

原作は筒井康隆。

岡本喜八監督『ジャズ大名』(1986)85分。 役柄もあって古谷一行が格好良い。きっぱりと、明朗な科白。不戦派の大名を演じる。 戊辰戦争の要衝に、城がある。西から東から、新政府軍がとおりたい、幕府軍がとおりたい。どちらに与することもなく、通行させ…

「何が知りたいんです?」「だから。どっちがオトコなの?」

ポーラ・ヴォーゲル『ミネオラ・ツインズ 六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ』(訳・徐賀世子)。 訳者あとがき、解説(伊藤ゆかり)、年表や当時の人名録が付されるなど、親切なつくりになっている。戯曲そのものの短さもあるが。 伊…