大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

するどさのとれた愛情

83歳のやさしいスパイ(字幕版)

マイテ・アルベルディ監督『83歳のやさしいスパイ』(2020)。ほどほどにお節介な、それだけに溜めのあるドラマは生まれにくい、隣人愛あふれる映画を観たくて。

89分。尺も良い。登場人物たちは若者でないから「挫折した」とか「失った」といった断定よりはゆるゆると「失いつつある」過程にある。

主人公のセルヒオは新米スパイ。介護士による虐待や窃盗を調査すべく特養ホームに潜入する。セルヒオがイケメン転校生のような立ち位置を得て、ちやほやされるのも見どころ。

ふつうに物語を楽しんだが、ドキュメンタリー映画なのだ。老人ホームに潜入するはずのプロのスパイが骨折して、代わりの者を探さなければならない。そんな状況に、フィルム・ノワールを撮るつもりで探偵事務所の取材していた監督が乗った。

探偵事務所で“はじめてのスマホ教室”のようなことからはじまり、セルヒオは特養ホームに。妻を亡くしたとはいえ、セルヒオには子も孫もいる。だから家族愛に飢えた入所者が気になる。関わっていく。恋される。

監督の問題意識で撮るのではなく、セルヒオの愛情に寄り添う。