『黒田育世 再演譚 vol.1』行く。演目は「病める舞姫」「春の祭典」。
ソロ作品「病める舞姫」は2018年の初演のかたちそのままに、鈴木ユキオが踊る。劇場リーフレットで黒田育世は〈同じ形で踊って下さるのをじっと見つめて、その差異から迷路の理由を学びたいと思いました〉と記している。〈教えて頂いているのはむしろ、踊りに向き合う姿の極度の美しさ〉とも。
土方巽の書籍『病める舞姫』(1983)を、黒田が踊り、鈴木ユキオがまた踊る。いまの空気を吸った舞踏やコンテンポラリーダンスと比べると厳粛で、やはり難解。原初の祈り、喜怒哀楽。力づよく、ゆっくりとうごく暗黒舞踏の始まりを視る。
「春の祭典」は加賀谷香とBATIK(大江麻美子、岡田玲奈、熊谷理沙、武田晶帆、政岡由衣子。ダブルキャストできょう観たのは相良知邑、三田真央。別日には大熊聡美、片山夏波)で激しく、派手。2014年作品『落ち合っている』のなかの一編を再構築した由。
この作品の創作時、私は妊娠中でとても幸せでした。するとその幸せの反対側から作品がやってきて、「春の祭典」で綴られる悲しい母子の踊りが現れたのでした。
心底尊敬申し上げる加賀谷香さんのお力とBATIK皆の強くて愛おしい情熱が、この物語を銜えて悲しい所からもうすぐ飛び立ちそうです。翼はとても大きいのです。
天使あるいは怪鳥を予告するリーフレットのとおり、舞台には乳幼児そのもののような、幻の、神か友であるようなおばけが出現する。さいしょは子どもの手遊びだ。「うーっ、うっうっうーっ!」「ぽっぽっぽっぽっぽー!」。そして「まっまー!」母を呼ぶ声。
ひとりの母、ひとりの子の部屋だろう。それを8人で踊る迫力だ。
〈妊娠中〉の蒼い想像力と回顧による幻影はおそろしいものだったろう。初演時の企図がどれだけ編集されているかはわからないが、今作では明らかな祝福を見ることもできた。出産、誕生、拍手喝采という物語の開放。物語が暴れる、疾走するに任せるという未完の生命力と遭う仕合せ。