大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

イチゴではなく

劇団 山の手事情社 ニュージェネレーション公演『ほんのりレモン風味』観る。構成・演出は川村岳、名越未央。監修、安田雅弘。

〈今回出てくる登場人物のキャラクター、ストーリー、セリフなどは、山の手事情社の俳優育成法《山の手メソッド》を用いた稽古により、俳優自らが考えたものです。シーンの前後のつながりはありません。瞬間瞬間をお楽しみください〉

シーンは短く、かぞえてみれば26ある。

出演は、酒井千秋、磯野晴菜、鍵山大和、平戸優希、有村友花、草野明華、馬場玲乃。

わかいあたまでしぼりだせることなど、タカが知れている。序盤は不安だった。しかし徐々に力を増し、はっきりと個体差を示していった。それぞれのファンになって帰路に就く。パンフレットやネットの稽古場日誌を読むと、そうとう厳しい、昔気質の稽古だったと判る。アイデアの源泉はこれからも生きて、たくさんの掘りかたをみつけていかねばならぬだろうけど、目のまえにでてきたものへの想像力、粘りづよさはみごとなものだった。

 

えがかれるのは恋愛や、結婚や、駅や、学校や、バイト先、稽古場と、ある意味かの女たちの世界の全てであり、社会にとっては部分に過ぎない。そうであっても描写はできる。それが「ペンは剣よりも強し」ということかもしれない。

開演して観るのは「開演前」。コンサート会場でチケットがない! という話。しっかりした発声の磯野晴菜。劇場の空気を伝って鼓膜がびりびりと。俳優としての身体訓練はきちんと積んでいる。山の手事情社の認定マークをみた気分。

みんな元気いっぱい。そんななかで有村友花と草野明華の「チラシ」。告知と勧誘をしてくる有村に、優柔不断ながらもさいごには意見する草野明華の、臆病のリアリティに魅力をかんじた。陰があるというのではない。むしろ朗らかなところがあるひとだろう。パペットをあいてとした「ぷりんちゃん」では後ろ暗い独りの時間をだしてもきたが、思考の襞、描写力は随一。

全員登場の「殴り合い」のナンセンスを経て、各人の自由を観客も共有できていったようにおもう。これまた全員の「婚約破棄のタイムリープ」にニュージェネレーションの感覚を詰めこんだ。

つづく馬場と磯野の「終電後」はまともに生活しているかつての同級生に駅のホームで起こされる役者の話。売れない未来も覚悟のうち。

「オンリーヒューマン平戸」や「研修をしてみる」で不器用なキャラクターを演じた平戸優希が気になる。分析する手に愛情がある。「きょうだいごっこ」も良かった。

「自分ヒストリー」「セミ」の鍵山大和は〈自分を掘り下げる〉ことをいちばん理解できていた。田舎の川で掬ったエビ。都会の道でしにかけているセミ。外界を、自然の光景として摑む。

「学童の先生」「無茶な要求をする演出家」――振り切った誇張で他人になってみせる馬場玲乃。じぶん、なんてなくてもいい。なくてもいいけれどしかし、ひとはあんがい作り手の自画像が欲しい。

等身大にこだわったのが磯野晴菜。酒井千秋はインテリである。この二人には自身の資質をずらし、増幅させていく可能性がある。

有村友花は型を磨いて美しく輝く。そんなふうにおもった。