デビュー45周年、「夢幻紳士」シリーズは9年ぶりの刊行という刻の話題から沁みるものある。短篇という美しい形式によって養われた世界が、やわらかな奥行をみせる。
するどくなめらかな反復と螺旋。夢使いとして自他の想念に入りこむ。妖の裏を掻く。夢幻紳士・夢幻魔実也はぜったい敗れないだろうとおもいながらもハラハラと読む。
高橋葉介『夢幻紳士 夢幻童話篇』。「燐寸売りの少女」や「人魚姫」といった古典のズラしかた、深めかたはほんとうに巧い。ひねり過ぎずにちがう味をだす手練。
単独行では奇譚のリアリティがあやういために生まれるバディ。今作は、健やかで好色なボクっ娘の千華坊が話を転がし、妖をまねき寄せる。現実世界では中小企業のエロス社長に食い物にされそうな千華坊。魔実也がスマートに円熟していて良かった。
「あとがき」が泣けて泣けて仕方ない。デビューからここまでの、たくさんのひとへの感謝。
〈最後に、夢幻魔実也氏に感謝する。漫画のキャラクターなどというものは作者が頭の中でひねくり出すものではなく、“外から”ポンッ! とやって来るのだという事を最初に教えてくれたのが彼でした〉とも。