マヨネーズのふしゅーという溜息を星の口から聞いてしまった
アークトゥルス、スピカ、デネボラ、星の名をポケットに入れて非常階段
蒼井杏の歌集『瀬戸際レモン (新鋭短歌シリーズ27)』。書名からもわかる、あるきだしたばかりのとしごろ。
地下鉄の券売機前で今わたし、二千円札のようにさびしい
内側に折りたたまれたレシートが祈りのように消える あいたい
半分に切られたキャベツがだんだんに盛り上がることを 涙 といいます。
耳穴の小指の先の届かないところにひとつぶ、海があります
水玉のマグに珈琲みなぎらせ居間という名のアウェイに向かう
このひとはもういないのだと思いつつあとがき読めば縦書きは、雨。
百円のレインコートをもとどおりたためるつもりでいたのでしたよ
冷えたゆびいっぽんかじる黒いのはバニラビーンズだって言ってよ
なんでこうなっちゃうんだろう浴室の鏡の鱗をこすっています
こんなにもわたしなんにもできなくて饂飩に一味をふりかけている
とらんぽりん ぽりんとこおりをかむように月からふってくるのだこどくは
ごめんなさいごめんなさいの正方形、鈴かすてらの砂糖のように
内臓をかきまわすようにボールペンのためしがきするわた わた わたし
そうですね ちょうどことりの首ほどの苺をまみずであらうくるくる
ちみしいをひっくりかえすとさみしいになるって知ってた? うそだよ ちよなら