大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

たとえば観念、感情を物に籠める

短歌の作り方、教えてください (角川ソフィア文庫)
俵万智一青窈の往復書簡『短歌の作り方、教えてください (角川ソフィア文庫)』。月刊『短歌』連載の、角川らしい盛りだくさんな作りで、穂村弘との吟行会、斉藤斎藤との題詠歌会も読める。
一青窈の歌「茶番劇」「どんでん返し」「今日わずらい」を俵万智が短歌にしたもの、巧い。
「どんでん返し」のほうは《散る散ると満ちるが空に広がって幸せのように消えてく花火》。
俵、「花火のような幸せってしちゃうとつまらないんですよね、(……)幸せのように消えてく花火とすることで、幸せっていうのはこういうものだって自分が思っているということが伝えられる」。
今日わずらい」は《肩透かしのままなら使い道のない景色と思う鬼灯市も》。


歌詞の世界で鍛えてきた一青窈、初心者として短歌に臨み、詰めこみすぎる。しかしそこを指摘され、さらに「こうあって欲しいと思ってその絵が浮かんだら、それはあったことでいい」、「誰もまだ歌ったことのない世界」といったアドバイスを経ることでぐんぐん上達する。

ブータンにルンタ旗めく赤青黄 犬は糞して 人は結して

もじゃ腿毛座布団にして夏西瓜君と分けあう椅子取りゲーム

ファドハウス男独りが壁の蔦歌も心もはいつくばって

石畳落し物なら夕焼けと男は煙草女はナッツ

円卓のぐるりおじおば同じ顔いついつまでも子供扱い

輪の中においてけぼりのビーサンが夢中で跳ねるフォークダンス

ぽつらぽつ雨に気づいて「吸いきれ!」と煙草らの先急激に赤

穂村弘と本郷の辺りを吟行。この穂村弘がみごと。

一青窈がにこやかに立つマンホールに「東京帝國大學暗渠」

オレンジの毛虫うねうねうねうねと波打っている こっちがあたま

レーシック手術を受けた人々と桜の下ですれちがうなり

穂村、「例えば一青さんがマンホールの上で笑っているっていうだけで、人は何パーセントかはマンホールに落ちる可能性というものを思い浮かべる。それはいちいち言語化されないけれども、何重にもものすごい情報量で日常的に感じている。短歌は、それを単純な言葉の連なりの中で引き出す鍵のようなものだと思うんです」と。