大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

「森から出てこなかった男」

森から出てこなかった男
スターダスト・ハイウエイ (角川文庫 緑 371-2) 「片岡義男 全著作電子化計画」というのがあって、一編ずつ買うことができる。おなじ価格だがながいのもみじかいのもある。紙の文庫だと『スターダスト・ハイウエイ (角川文庫 緑 371-2)』に。「森から出てこなかった男」。
SFのような短編だ。現代に生きるロバートはナチュラリストで、しっかりした山荘を建て、ホテルにもなる、ガイドもできる、〈現金というものを使って外部から買いととのえなくてはいけないものが何種類か必ずある〉。
パーティにやってきたなかの子どもたちにロバートは、見えないけれどそこにあるものの話をしてやる。

「きみたちの飲む水だって見えるよ」
「水が? どこに?」
ふたりの男の子は、両側からロバートの頭に顔を寄せた。
「雪の下に地面があり、その地面の下に、水があるのさ」

この山で暮らすために時間をかけた。図書館でみつけた一〇〇年前のシエラ・ネヴァダの文章とのあいだにも時間がながれている。それでいて近い。

シエラ・ネヴァダ大自然の中では、あらゆるものが、かたときも休まずに、生きている。静止しているかに見える巨大な岩山も、じつは何万年という生命を生きているのであり、ふと見た小さな木の枝の下に巣をはっているクモや、草のあいだを飛ぶ一〇セント貨ほどの蝶も、それぞれに命を持っている。谷も山も大樹も、生命のかたまりだ。シエラ・ネヴァダは、無数に近い生命の集合体であり、ロバートの目にとまるどの光景も、地球の生命をのぞきこむ窓なのだ。
どの窓も、すべて、見たい。ロバートは、そう思った。この宇宙の中で、あらゆる生命体が、おたがいにどこかでつながっている。

男の子たちに語りかけるさいごの台詞は「見ること」「伝えること」「次の人」「仲間」といったかたちで未来をえがいてみせる。