舞台は、大阪。文楽の人形遣いの役である藤山寛美と、そこに入っていこうとするエルザ(イーデス・ハンソン)のやりとり。
「アタシねえ、アンタに礼いわなァ思てまんのや」
「なんでや」
「恥ずかしいこっちゃけど、アンタアタシに文楽の見方ちゅうものを教えてくれはったもんな」
「そんな……」
「いや、ほんまだんねん。文楽は理屈やない。体で覚えるもんやって偉そうなこといっときながら、肝心の『こころ』ちゅうこと忘れてたもんねえ。そらそうや。観るほうはこころで観んのやから、演るほうも、こころで演らないかんねんな」
映画『青い目の嫁はん』(1964)。仏像趣味をきっかけに文楽へのめりこんでいく大阪弁のヒロイン。
喜劇である。異文化への偏見はゆるやかに解消される。あるいは、利害関係で対立したときにつよい拒絶として表れる。
人形遣い吉田小吉(藤山寛美)の父親・人形師に笠智衆。小吉の叔母で、エリザに部屋を貸すのがミヤコ蝶々。愛嬌がある。
「へえあんた、こんなんも好き」
「ああ、いま大学で勉強してまんねん。うち仏像の顔ものすごい好きだんねん。えらいチャーミングやな」
「チャーミングね」
「どない言うのかな日本語で」
「わかってますよチャーミングぐらい」
エリザがアメリカの実父に、文楽のひとだから名まえが二つあるというと「スパイじゃないのか?」なんて返されるのは可笑しい。
アメリカからやってきたヒロインが日本の文化に魅入られるというかたちは『ラーメンガール』(2008)にも受け継がれている。