大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

嘘と、ささやかな多声。

「先生ワタシね、ワタシねじぶんが今しゃべったこと、じぶんが今しゃべったこと、次の瞬間忘れてるんです」

「困りましたねそれは」

「何が?」

笑福亭松枝「高津の富」。『新春揃踏 角座演芸づくしの会』(心斎橋角座 2021.1.1)より。

ドクターシリーズと称してお医者さんと患者の小話を立て続けにしゃべる。軽快で楽しい。面貌も口吻も、上方らしくてホッとできる。

演った「高津の富」はカネもないのに景気のいいホラ話する男とその周辺。もちろん男は富くじに当たってしまう。そしてすぐにサゲ。

富くじを買った連中の、それぞれの皮算用

さまざまな声がある。匿名ながらも、こだわりがある。

「茶碗蒸し好きでんねん。茶碗蒸しあったら他なんにもいりまへん。茶碗蒸しでちびちびちびちび飲んでいるうちにええ具合に酔いが回る。『おいぼちぼち寝よか』うーん(ト幸せそうな声音)」

あちらこちら細部に幸せ。それが夢物語や妄想であってもくすぐったい。

他人の夢物語や妄想があるから、ほんとうに富くじを当ててしまう男のリアリティが生まれる。