『泣き虫しょったんの奇跡』(2018)。主演は松田龍平だが、早乙女太一、妻夫木聡、染谷将太、永山絢斗、野田洋次郎、渋川清彦、上白石萌音、新井浩文その他、新進の二枚目だけでも大勢でていて、しかし将棋の、奨励会の話だからみんなで幸せになることはできない。将棋の世界にのこることができず、途中退場する者もたくさんいる。
へんに印象づけようと、うるさく演っていなかったので却って胸にのこる。『彼らを見ればわかること』で観た駒木根隆介、桂三度(演技はけっして上手くない)がでていたのも嬉しい。
原作は棋士・瀬川晶司の自伝。それを奨励会経験のある豊田利晃が撮った。だからつまらない嘘もなく、省略もナチュラルだ。
少年時代からはじまる。担任の先生の松たか子が良い。優しくて、泣けてしまう。しょったんの両親役の國村隼も美保純も優しい。お兄ちゃん(大西信満)が一人カリカリしているが、まあこれは役割分担でもある。まわりの優しさのために、じぶんは努力を怠ったのではないかと後悔するくだりは、一寸凄い。
生きていると、感謝を伝えきれずに終わってしまうことが何度もある。じぶんの物語や、他人の物語から逃げだしてしまうことも。そういう悔いがずいぶんえがかれている。
街をあるいていてくるしくて、底なし沼に足を辷らせたようになるばめんがある。幻覚のたぐいだが、これを実際撮っている。
アスファルトのいろした底なし沼にすっかり呑まれて、目も鼻もわからぬ恰好でもがくすがたを観てああこれは松田龍平にしかできない映画だったんだなと納得した。