大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

「物理学者でありながら、罪に染まらず」

フリードリヒ・デュレンマット原作『物理学者たち』(ワタナベエンターテインメント Diverse Theater)観る。上演時間2時間10分。

舞台は「桜の園」という名の、いまは精神病患者の施設となったサナトリウム

自称ニュートン、自称アインシュタイン、殺害、物理学者とあらすじの印象はややこしいけれど、ノゾエ征爾の演出とみごとに刈りこまれた上演台本により観劇中、つぎつぎ興味が湧いてくる。

物語のはじまりは、看護師殺害の現場検証から。先日は自称ニュートンが女性看護師を絞殺し、きょうは自称アインシュタインが女性看護師を絞殺した。警部はいらいらしている。

警部に坪倉由幸、看護師長のマルタに吉本菜穂子ストップモーションで幕が開き、吉本菜穂子の表情でもう可笑しい。いびつな人物たちによる西洋的な喜劇だと判る。「出口なし」の「授業」だ。過度なメイクこそないものの、翻訳劇の旨いのがでてくるぞと期待が膨らむ。

吉本菜穂子の演技に、客席のどこかの子どもが笑う。坪倉由幸は熱演。真ッ直ぐだから、温水洋一(通称ニュートン)や草刈民代(院長)らの出方次第で対応を変えられる。

中山祐一朗(通称アインシュタイン)はいかにも現代演劇。後景に下がっても表情をつくる。シリアスである。もっと誇張し、ふざけた中山祐一朗をいつかどこかで観たいともおもっている。

この物語の主要人物であるメービウス(入江雅人)がでてくるまでにはまだすこし間がある。患者として15年もここにいるメービウスと離婚したリーナと、再婚相手の宣教師オスカー・ローゼ。リーナとメービウスのあいだにできた三人の子たちの来訪だ。

リーナ役の川上友里が情の濃い怪演をする。押しつけがましいようでいて、とつぜん引いたりするのも上手い。合いの手を入れる夫オスカーにはノゾエ征爾。「太平洋です」とか「世界でいちばん美味しいチョコレートです」といったみじかい台詞で笑わせる、腕の確かな演出家なのだ。

メービウスの入江雅人が非常に良かった。メービウスの物語をずっと観ていたい気持ちだった。当然にメビウスの輪をおもいえがかせる名であり、人生はにがい。そのにがい人生を抱えながら他の「物理学者」たちを説得する。クライマックスまではおとぎ話の美しさ。入江雅人に課せられたものはおおきく、それによく応えてもいる。

メービウスを看護するモーニカを演じた瀬戸さおりは堂々として情熱的で、もっと広い劇場でも行ける。

ほかに竹口龍茶、花戸祐介、鈴木真之介。

 

デュレンマットの文字通り二転三転する展開は登場人物全員に決着をつけて素晴らしい。

原作にあるのか、上演台本で付け足されたのか、さいごのばめんは悲しくもあるが晴れ晴れと。兎に角も救われた。観客たちは。