KAAT 神奈川芸術劇場にはダンスばかり観にきている。
伊藤郁女、笈田ヨシ『Le Tambour de soie 綾の鼓』。
能の「綾鼓」。演劇として翻案した三島由紀夫の「綾の鼓」(近代能楽集)。そこへダンス。“モダン能”となって世界をまわる。テキストは、ジャン=クロード・カリエール。これが遺作である。
パーカッションにはSPAC所属の吉見亮。
老人が、若いおんなに恋をする。ラブレターを書く。ここにある鼓を鳴らしてくれたら応えましょうとおんなの返事。しかし鳴らない。鳴るはずもない。革の代わりに綾絹が張られているのだから。
それでいて「あたくしにも聞こえたのに、あと一つ打ちさえしたら」とおんなはさいごに言うのである。演出次第で意味が変わってくるところ。
今作では、老人はしなない。亡霊が現れるのはおんなのこころのなかだろう。思念は成るものでなく視るものだ。慕われたおんなのほうが、二人のあいだの「恋情」にこだわってしまったのだとおもって観た。
惚れたとは言え老人は世間を知っている。日常にもどることができる。二人とも生きているから「あと一つ打ちさえしたら」のすれちがいが活きてくる。すれちがいではあるけれど、報われる日が来るかもしれない。