大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

どの短編にも初期衝動

いたいけざかり (Feelコミックス オンブルー)
いたいけざかり (光彩コミックス) 2011年にかわかみじゅんこ名義で出版された『いたいけざかり (Feelコミックス オンブルー)』は、もとをたどれば西目丸時代のコミックス(2004年。光彩書房)で、雑誌に掲載されたのはおもに1990年代。
それは当然1980年代から連なるもので、なんとなく想起するのは昭和軽薄文体、日本語のカタカナ表記、カタカナ職業、ネアカ-ネクラ、NIGHT HEAD、バブル景気。
マイナーであることに拘泥したり偏見をもったりするのがダサかった。この短編集の男子はゲイもヘテロもみんなスマートで、是非もはっきりしている。
するっとキスし、関係する。恋愛になるとはかぎらないが。ヘテロ同士でもゲイ同士でもそういうもんだろう。
キスが一回あったあとも、部屋にやってきて、いっしょにビデオ観るヘテロの友人。語り手であるゲイが引きずらないのは〈こんなみさかいのない 人でなしに ふりまわされるのは 男としてあんまり情けないので〉という理由づけによるもの(「悩んで学んで」)。
ゲイの立ち回りも立派だが、ヘテロ男子の描きかたが巧い。ゲイセックスの可能性をまったくもたないのもいれば、なんとなくやれちゃう奴、ヒトとの距離感がわからなくなって荒れるのとか、さまざま。
まひるの星」のヘテロ寄り男子・渡辺みたいなカスは好い。曰く〈渡辺はモーレツに好かれてこっぴどく嫌われるようなタイプで でも いつも人の真ん中にいた〉、
〈他人の事は考えない あいつは 好きなものは好きなだけ手に入れて そしてものすごく嬉しそうな顔をする〉──

小学生だわ ありゃ
オレ 渡辺から離れてった奴らの気持ちわかっちゃった
あいつ たぶん ほんっとに何も考えてねぇよ

「バカだ 誰も口をきいてくれなくなって それでもひとつのやり方しかできなくて」
まわりにどうおもわれるかをすこしもかんがえないで生きている渡辺。ある日拒絶されるという、結果だけを見て学習しない渡辺。
渡辺のことを好きだった黒木もその感情はすてて引っ越しまでしているが、そこに渡辺が訪れる。
「来てやった」好きなんだろ? というわけだ。それは過去のこと。だから玄関先で一悶着ある。渡辺が「お おまえとキスしたり 裸で眠ったり…してえんだよ す すきとかわかんねーけど おれ…お おれのこと きらいなのか おまえも…」と。
こういうのと暮らすことも人生だろう。恋愛感情を中心に据えてしまうと孤独になることのほうが多い。
スポーツマンに〈女役の方の願望〉がある「Love me do」。二人組が町から町へ移動しながら暮らす、ある種吸血鬼譚のような「レイニー・デイ・サービス」など、どの作品も味が決まっている。
書き下ろしの「まちがえざかり」は千回読める完成度。