〈表面だけ演じることで わかってないふりをしていたかった〉
PEYO『ボーイミーツマリア』、BL、すごかった。
生きのびるために「薄っぺら」な反応をしていくことをえらんだ大河(たいが)が、女装する演劇部員・優(ゆう)と出逢う。それこそ「薄っぺら」に、どこまでもつづけられそうなラブコメとして展開するのかとおもいきや、話がどんどん、どんどん重くなる。どうあっても関係がおおきくうごいて、どこかに、着地しなくてはならない──『ボーイミーツマリア』は悲劇としての貌をみせる。
おんなの子の恰好をした優に、大河は惚れた。「肌も白いし まつ毛も長いし その金髪も ふわふわしてて 似合ってるし
なんたって オレが昔見てた特撮の ヒロインに そっくりなんだ」
と、口きく機会にいきなりイメージを押しつける。このマンガは、きちんとドラマだから、その場で優の感情が返ってくる。
男だって 言ってんだろ
それとも実際に 証拠でも見ないとわからないのか
お前 あ?
いいよ 見せてやるよ
見ろ
ほら 正真正銘 男だろ?
「キレる」というコトバが内包する理不尽さは、ここにはない。真っ当な怒り。序盤で、すべてが明るみにでたような。そのはずなのに、なにも見えない。サスペンスがはじまる。
怒りを露わにしたあとに、泣きながら帰る優。大河が激しく後悔するのも佳い。
優のフルネームは有馬優。スカート、ワンピースのときは有馬を逆さにしてマリア。名のつけかたも巧み。
衝突しながら互いに信頼を深めていく。優が「僕のことを『女として』好きなのか『男として』好きなのか どっちなんだっつの」とさりげなく聞く。大河は答えられない、わからない。恋愛感情の醍醐味は、これだろう。性愛のシミュレーションを必要としない。そのときどうなるか。プランなんかアテにならない。この濃密な無垢。
話の運びかたにもおどろくのだ。「気絶」や、忘れものを取りにかえる「無駄な移動」を内省的対話に充(あ)てている。
役割を強いられることなく生きていけるといいとおもう。しかし社会には掟がある。それがときどき目についてしまう。
〈ぼくは 女でもなければ 男でもなく 女でもなく 男でもなく、……〉
かれらが幸福になることを願いつつ読む。