『吉祥寺寄席』行く。第55回。
登場したのは春風亭一猿、春風亭三朝、ゲストに栗林祐輔(能管。笛方森田流)。仲入あって八光亭春輔。
春風亭一猿、いまは前座だが5月に二ツ目昇進の由。演ったのは「半分垢」。
この噺はおもしろい。娯楽のすくない時代というか、相撲が非常な人気で、その身体も凡人とはかけ離れたもの。それを町内で、間近に見るおどろき。
そういう浮かれが、ご近所にも関取のおカミさんにもある。市井に充ちる熱っぽさ。そんな想像を働かせて演ると、春風亭一猿はもっとおもしろくなりそうだ。
春風亭三朝「浮世床」。これは髪結床の待合で、文字の読めないおとこが『太閤記』の「姉川の合戦」を難渋しながら音読するという噺。文字が読めないというのにも引っ掛かるが、いまとなっては「姉川の合戦」のわからなさにも引っ掛かる。ずいぶんとおもしろさの軽減した噺の一つだろう。
能楽から栗林祐輔。
能管は、神事に用いられる石笛(いわぶえ)の流れを汲み、高い音、割れた音。さまざまノイズを許容する。
栗林さんはマニアックなところに、若々しさ。国立能楽堂の入場無料企画展の話を、嬉嬉と。いま、国立能楽堂開場35周年記念として、かなりのものがでているそうな。“雷の鼓胴”それに付随して織田信長の書状。
百年経って良い音がでるようになる和楽器の世界。江戸、安土桃山といった時代物が平成の世に現役である。
披露されたのは能の曲、狂言の曲、それから楽器の名が題になっている「羯鼓(かっこ)」。
八光亭春輔「山崎屋」。これは「よかちょろ」として知られていることのほうが多いか。
日本橋横山町山崎屋の若旦那・徳次郎と、番頭の久兵衛。久兵衛は「石橋のうえで転んだら石橋のほうが『痛い!』と言う」ほど堅物だと自称するが、店のカネで女を囲っていることを徳次郎は知っている。だから吉原で遊ぶ費用を工面してくれと。
久兵衛は久兵衛で、徳次郎が何という名の花魁にいれあげているか、調べがついていたから、遊びを止めて夫婦になるようもちかける……。
佳い話である。男女が結ばれるまではほとんどえがかれず、それでいて双方の愛情がよくわかる。
八光亭春輔は、師匠・林家彦六譲りのゆっくり、はっきりした喋り。そこにもきちんと情感はあって、くっきりと語られているからこそ、噺の省略も光るのだ。
もっと聴きたい落語家の一人。なかなか日程が合わぬけれども。