大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

観客 「『犬殺し』って何ですか?」

演劇実験室◉万有引力『Ø 迷路と死海 ―演劇零年◉見えない演劇!―』。

台本は〈寺山修司戯曲集より〉。演出・音楽・美術はJ・A・シーザー。構成・共同演出に高田恵篤。

 

シアター・アルファ東京、こけら落とし公演として。久しぶりの高橋優太出演。さらには根本豊。彗星のように顔をだす。キャストのなかに根本豊の名があるのを見て、数週間、どきどきしていた。

いまの万有の公演は、コロナ禍に心身を錆(さ)びつかせぬ俳優・観客の営みであり、装置は簡素、場面も少人数で構成されて祝祭性からやや遠い。その短詩的な寂(さ)びを中堅観客としておもしろく観るものの、猥雑/挑発/ストレスが足りなくもあった。まちがいなく美しいというのに。

今回の《事件》は根本豊「主演」の観客参加パートだった。座席の番号が書かれたカードからえらばれたのは絶妙にダサく、戸惑いと質問の多い女性。しかし中堅観客は見ていた、根本豊の指さきを。最前列だったから。「(カードマジック…)」――仕込んでいるのか?

そうおもって観るのに女性はあくまでダサく、進行を妨げるような質問をする。いや「質問」という行為そのものがじゅうぶんにテラヤマではあった。「素人」を転がす根本豊のしゃべりはみごとで、その後一人の長台詞(ニュートリノとウイルスについて)にも惑溺させるワクワクがあった。

そして女性は、俳優だった。万有引力の観客参加はほんとうに観客のときもあるし俳優が扮していることもある。主演に新人を起用したりもする。俳優にも観客にもあらゆるパターンのある万有だけど、今作の「観客」はさいごまで尻尾をつかませなかった。凄い。転換後は金髪のカツラにサングラスで映画館の受付嬢を演ったようだ。これは若き観客/俳優から伝え聞いたもの。マリリン・モンロー、あるいはスー・リオン風サングラスの受付嬢は、映画館の観客を演ずる俳優に「はやくトイレに行っトイレ」と科白して観客を笑わせた。「観客」も《迷路》だったのだ。

 

《迷路》の女優も登場する。結論からいうと女優ではなくファンである。男性俳優に遊ばれただけの。そのことを自覚しつつもじぶんは男性俳優と互角の「女優」だと夢を見つづける。ホテルの女中に夢を分け与えもする。夢は増殖する。

 

小林桂太の肉体が、伸びざかりの俳優の如く自信に満ちていた。