大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

「トオルってさ 言いたいことあると黙るよな いつもすごいしゃべるのに」

 

てだれもんら 1 (ビームコミックス)

行為をえがかないBLかな、とおもって読みはじめた。

絵は、写実的ではないけれど色気がある。骨が太く、おとこの膚の匂いがする。タイトルは『てだれもんら』。手練の者たちということだ。日本の料理人と、庭師。

週末に、ひとつの部屋で寝るものの、えがかれる恋は片想いらしいと判るのはすこしあと。それよりもおどろくのは三話目の「庭師の仕事」だ。

庭に棲む《怪(け)》を祓うのも仕事であると。

一話、二話の語り口がしっとりしていたこともあって、空想的非日常の混入に動揺した。あわてておなじ作者の短編集『にわにはににん』を買い「ああ、ファンタスティックな庭師の話はすでに描かれていたのか」と確認できても胸の高鳴りが止むことはない。

中野シズカ『てだれもんら』第1巻。つづくのである。生ま生ましい二人の眠りがファンタジーに呑みこまれぬよう期待しながら待つ。

 

現代っ子の描きかたがみごと。極端でなく。どこにでも居そうな。

その延長線上に、クセのある奴、芯のある奴などがいて、物語をつくっている。 

「売春婦がつぎつぎにころされる 事件が クリスマスシーズンに起こった」

ロンドン・ロード ある殺人に関する証言(字幕版)

『ロンドン・ロード ある殺人に関する証言』(2015)。

2011年初演のミュージカルを映画化。スリリングなつくりに、にやりとする。

イプスウィッチ連続殺人事件と検索すればでてくる実際の事件、その狂騒や差別がすぐ目のまえのことのようだ。

えがかれるのは殺人ではなく、噂。売春婦ばかりがつぎつぎと。「善良な」住人たちは恐怖をかんじつつ、好奇心を掻き立てられている。

 

監督は、ルーファス・ノリス。現在ロイヤル・ナショナル・シアターの芸術監督でもある。舞台の演出もこのひとだ。

えらばれたのは、ちいさな劇場だったという。ささやくような、うたうがごとき科白。けっしてうたいあげたり、おどったりせず、さざ波めいた途切れることなきなめらかさがつづく。

静かなミュージカルなのだ。反復、増幅、突然の休止。事件に取材し、そこで拾ったことばが詞として用いられ、芝居がかったものではないのに、ミュージカルの快味を保っている。

 出演者の大半はオリジナルキャスト。

「じぶんの死を想像して生きようともがけば、どんなことでも成し遂げられるはず」

ファング一家の奇想天外な秘密(字幕版)

「体当たりの演技が売りじゃなかったのか」

「演じることが怖いから、何にでも挑戦しただけよ」

『ファング一家の奇想天外な秘密』(2015)。原作はケヴィン・ウィルソンの小説『ファング一家の奇想天外な謎めいた生活』。

なにしろキャストが佳い。ニコール・キッドマンジェイソン・ベイトマンクリストファー・ウォーケン、メアリーアン・プランケット。。クリストファー・ウォーケン演じる父親の若き日はジェイソン・バトラー・ハーナー、若き日の母親役にキャスリン・ハーン。

監督は、出演もしているジェイソン・ベイトマン

 

かんたんに言うと「毒になる親」との物語、「毒になる親」からはじまる物語。

それが陰惨な密室劇にならないのは、ケイレブ(クリストファー・ウォーケン)とカミーユ(メアリーアン・プランケット)が子らを巻きこんで活動した前衛芸術家だったから。

かれらは子のアニーを「A」、バクスターを「B」と呼んだ。長じてアニーは女優に、バクスターは小説家となった。しかしアニーもバクスターもミッドライフ・クライシスに突入し、仕事がうまくいかなくなっている。

再会した父親の芸術性も衰えていた。

 

ここまでが起承転結の、起。原作が長編小説なので、おもいださせれる幼少期や、そのとき関わったひとびとの再登場が小気味良い。「転」を迎えて俳優たちの表情が変わる。ぞくりとする。

 

アニーは「家族を演じたくない。一度でいいから本物の家族でいたいのよ」と言った。

べつのばめんでバクスターは「偉大な芸術は難しい」と父に対して皮肉だった。

 

バクスターが語った。「かんがえたくないのにかんがえてしまうときには、そのことから書きだすと良い」

どんなに奇妙でも、それを書き進めていくんだ。

 

アニーはつぶやく。

「昔は良かった。シンプルだった」……。

「言うことを聞いていれば済んだ」……。

「いつから複雑になったのかしら」……。

 

高校時代同級生だったスザンヌ・クロスビー役にマリン・アイルランド、サンドウィッチ店のマネージャーにチャーリー・サクストン。

 

〈霧のなかでは 秘密の友だち〉

音楽劇『あらしのよるに』観る。

主演は渡部豪太(ガブ)と福本莉子(メイ)。オオカミのリーダー・ギロに高田恵篤、おばさんヤギに平田敦子

演劇は、おもしろい。高田恵篤のようにアングラを演り、シェイクスピア劇(それも、野村萬斎の)を演り、ファミリー向けの劇を演る。たくさんの作家を股にかけ、表現の豊富なベテランがいるかとおもえば、ういういしく真ッ直ぐな、自身の感動を舞台にあふれさせる若手もいる。渡部豪太は中堅だろうか。十代の福本莉子との共演に、余裕がある。オオカミとヤギの関係を、あくまでユーモラスに。

脚本との格闘の合間に、俳優同士の駆け引きがある。

 

前半55分、休憩20分を挟んで後半は35分。子ども向けながら、2時間近い劇場体験をさせるのが凄い。原作やアニメ映画と比べて台詞は削ぎ落とされている。生演奏。生歌。オオカミが、ヤギが、精霊が踊った。

あらしのよるに》という合言葉、《ひみつのともだち》なる関係性。ワクワクするような、ヒリヒリするようなかたちをつくった原作はきむらゆういち

音楽劇の脚本・演出に立山ひろみ。

「誰もいない海に行きたいです」  新田真剣佑

Ray(レイ) 2019年 09 月号

きれいというのは、おちついていて、あどけないこと。そのあどけなさを青年期にも温存している。

『Ray』2019.9。表紙と記事に、新田真剣佑

新田真剣佑の記事に触れるたび震えるのは、インドアなのに交遊をひろげているところ。好奇心旺盛。それを、あちらこちらと散らかさずに定め深める。

友達の出ている映画で泣きます。というか、友達が出ていても泣きます。

この「友達」も軍団や派閥のようなものでなく、フラットな連帯だ。

 

新田真剣佑は、自他の若さに影響を受けている。

きっといつまでも若い。

「これ、食えって?」

GALAC 2019年8月号

コナリミサトの原作は、ひとつのばめんに「いやなこと」と「いいこと」を盛りこんでくる。そのために物語は途切れない。事態が好転するのを信じて読み進める。

誇張をしなくてもヒトはイビツで、だからヒトと触れあうセックスや恋愛には抗しがたいものがある。『凪のお暇』にでてくるおとこたちはイビツだ。それを高橋一生中村倫也が演る。

世界三大欲求の食欲が満たされたー

残るは睡眠とー

あとひとつ なんだっけ?

ねえ凪

して 

セックスを愛せない。さいきんよくとりあげられる感覚だけれど、性行為を強いる慎二(高橋一生)に悪意があるわけでなく、身体のちがいをまだ知らないだけ。身体の、ひいては思考のちがいに気づけぬままならサイコパス。どうなるのだろう、慎二。

そしてゴンさん(中村倫也)がドエロい。観ていて泣きそうである。

 

さて、『GALAC』(2019.8)だ。中村倫也はいま注目されているし、記事にあるとおり〈4〜5年くらい前から〉話題になってもいた。

〈俳優を始めて15年になる〉

その頃。

「需要がないことをどうしたらいいんだろうって考えて腐ったりもしていました」

若いころは芝居がうまいことがいいことだと思っていたんです。でも、実際には商業的なことや、役にあった見た目や声質なんかで選ばれていく。芝居がうまいに越したことはないけど、その前に人間的な魅力とか、醸し出す雰囲気とかが重要なんだって学びました。

けっしてとんとん拍子に来たわけではない。

恋愛や、生活もそう。凪(黒木華)も、慎二も、ゴンさんもイビツであり、つまずいている。

俳優たちがしっかりとふくらませた実写化。イビツな陰影に打ちのめされる。

「木南さんのせりふに『寝顔が美しい』とあるので、最近パックもしています(笑)」

家事に類することがひとつ片づいたので、深夜のコンビニに行って雑誌を購入。

『テレビライフ首都圏版 2019年 8/2 号 [雑誌]』と、『MORE(モア)2019年8月号 付録:uka 美髪パドルブラシ』

『TVLIFE』の山田涼介がとてもきれい。山田涼介を好きな友人が、王子さまになりたいと、おんなの子と暮らしはじめてしまったのもわかる。その友人は善意の使命感に駆られて問題だらけの少女と添い遂げるのだと言う。

 

ドラマ『セミオトコ』。『セトウツミ』から来たのだろうか。設定の強引さがまた幻想的で、どんなドラマになるかなとおもいながら読んだインタビュー、山田涼介の期待のさせかたがすごい。

セミオトコはふ化して生まれたばかりだから子供っぽい無邪気さも欲しいと言われて」

ある時、木南さんが監督から『もっとセミにひきつけられてほしい』と指示を受けていて。すぐさま『それは俺の問題です!』と言ったんですけど(笑)

責任感を支えているのが優しさ、というひとはすくないけれど、山田涼介は優しくて責任感がある。そのやわらかさがあちこちから窺える。

7日間しかないと猶予が明確に決まっているのなら本当に自由に生きると思います。ほとんどの人、特に大人は自由には生きられていないのが現状だろうから。