大漁、異漁。耀

タイトルは タトゥーのようなもの

「親父が言ってたっけ。『味は見た目だけではない』」

カフェ・ソウル [DVD]
武正晴監督『カフェ・ソウル』(2009)。脚本(金杉弘子)は甘いところもあるけれど、カメラワークがしっかりしている。
追いかけっこがはじまったり(『嘘八百』)、育ったばしょがおんなじだったり(『百円の恋』)と武正晴監督らしいばめん、傾向をかんじた。
斎藤工とジョンフン(キム・ジョンフン)のダブル主演。
ジョンフンの演技がとても良かった。シーンごとにテンションを変えてくる。そのうえでの喜怒哀楽だから、ちゃんとドラマがみえてくる。


立ち退きを迫られている伝統菓子の店・牡丹堂(モランダン)。守っているのは長男のサンウ(チェ・ソンミン。1973年生)。次男サンヒョク(ジョンフン)はバンドマン。三男のサンジン(キム・ドンウク)はヨーロッパに行ってしまった。ばらばらになった家族。
フリーライターの井坂(斎藤工)が強引に取材をはじめたことで、牡丹堂はうごきだす。
ヤクザ(チャン・ソウォン)が美男。その後ろから黒幕。牡丹堂という店名を欲しがっている。多店舗展開を図るオシャレな牡丹堂だ。
黒幕が告げる。「味勝負。勝ったほうが牡丹堂を名乗るとしよう」
ここからさきはひたすらに予定調和。ラストは斎藤工のながいながいナレーション。
そのあとのエンドクレジットではバンドマンとしてのサンヒョクがえがかれ、これは監督の演出かな。

「『骨董品』になったら、また店においで」

嘘八百 [DVD]
中井貴一佐々木蔵之介がならぶ『嘘八百』。包容力と胡散臭さをもつ二人。大阪で、骨董品をめぐるコンゲーム
出演者が皆胡散臭さをまとっている。近藤正臣芦屋小雁、木下ほうか、坂田利夫……。その辺りでじゅうぶんにおどろけるが、桂雀々まででてくる。芸人さんや落語家のえらびかたが絶妙。前野朋哉友近塚地武雅寺田農も、好かった。
監督、武正晴。脚本は足立紳今井雅子


ゴッホかて『ひまわり』何枚も描いてまっしゃろ? 鑑定書の数だけ本物があるんですよ」


贋物、贋作、フェイク、贋金など。いろんなことばを想起する。テーマとしてニセモノを扱うと、ホンモノや《天才》よりもずっと理性を要求される。
科白が良かったのはもちろん。観ながらかんがえたのは、脚本にどこまで演出が書きこまれていたのかということ。画面がぜんぶきっちりしている。感覚的なところ、ゆるみのようなものがまったくなくて、ただただ感心する。登場人物間の目くばせなど、俳優の技術なのか監督の指示なのか。
完成度が高く、ロマンもある。ニセモノにまつわる話だけに、温かな気持ちで観ながらも、ぞっとするときがある。

「…いつからそういうこと言うようなヤツになった?」

アイ・ドント・クライ (上) 【電子限定おまけ+アマゾン限定特典付き】 (バーズコミックス ルチルコレクション)
union (バーズコミックス ルチルコレクション) イシノアヤらしからぬ表紙の『アイ・ドント・クライ (上) 【電子限定おまけ+アマゾン限定特典付き】 (バーズコミックス ルチルコレクション)』。たおやかな、男子アイドル然とした顔。ほかの人物たちとは描きかたが異なる。それで華がある。
アイドルも、バンドも扱う芸能事務所で、姫野亜樹はジリジリしている。自身はドラマに出たりもしているが、所属するアイドルグループそのものはパッとしない。メンバーのモチベーションは低い。マネージャーが若手に代わった。《敗戦処理》だと、姫野は言う。

誰が
解散って言った?
安心しな
俺にそのつもりは
ねえよ

主人公が、グラグラしている。けれど支えてくれるひとがいる。この関係性は熱い。
グラグラしているぶんだけ、短絡的になる。他に厳しくもなる。姫野はときどき過激だが、マネージャーの笠原は柔軟な策士。


「笠原さんて変わってますね」
「──…芸能人に言われる程じゃーないと思いますよー」


アイドルグループは、解散。笠原のアドバイスで、姫野は移籍。ふたりの道は分かれることに。
登場する大人たちには分別もあるし、展開も好い。逢坂みえこベル・エポック』などおもいだしながら、読んだ。
もちろんイシノアヤの『union (バーズコミックス ルチルコレクション)』も想起し、読みかえす。

もう一回くらい観たい…

渋谷VUENOSでK-POPバンド、IZ(アイズ)のライブを観た。
入場料5,000円に1ドリンク600円。ドリンク代のみで入る方法もいくつかあるようだ。


2017年8月31日に韓国でデビュー。今回、初来日。渋谷、表参道、池袋でライブする。今週末の土曜日まで。
きれいだった。メインボーカルがジフ(1998年生)、リーダー兼ギターがヒョンジュン(1999年生)。ふたりはしっかりしていて、大人っぽい。
ドラムはウス(1999年生)。ずっと笑っている。けっこうふざける。ふわふわと明るく、華奢。
ベースはジュンヨン(2000年生)。このグループの末っ子というのは、帰宅してから知った。ウスがいちばん年下かとおもっていた。
ウスとジュンヨンはとてもかわいかった。


ちいさなライブハウスだから、かれらの技巧や緊張が露わになる。メイクで表情がはっきりするぶん、伝わってくるものはおおきくて。迷いも安堵もリアルなものだ。
ウスは何本も水を飲んでいた。きれいな顔だけど、信用できる。運動量。
演奏中の絡みや目くばせ。それがでてくるのは後半を越えてからだった。ツアー中にどんどん成長するのだろう。
とにかくIZに《海外》を経験させる。そんな狙いもありそうだ。

〈地球にうまれた生き物は、いつか絶滅する運命。むしろ、生き残ることのほうが、例外なのです〉

わけあって絶滅しました。 世界一おもしろい絶滅したいきもの図鑑
タイトルが良い。雑学系の、なんとなくヒキをツクる見世物小屋的胡散臭さではなく、着地しているタイトル。『わけあって絶滅しました。 世界一おもしろい絶滅したいきもの図鑑』。
章立てで、さまざまな絶滅がならんだあとに「絶滅しそうで、してない」。ウッと胸がつまった。『わけあって絶滅しました。』という秀逸なタイトルをつけておいて、そこから引っくりかえしてみせる。感動的な、王道のつくりなのだった。
「切り離して読める!」「3分でサクッとわかる」「絶滅全史」という附録もイイ。通読させる力をもったうえで、要約も容認する。ダイジェストは、ある種のユーモアだとおもう。


ダイヤモンド社のまえで、この本を知った。〈やさしすぎて絶滅〉、ステラーカイギュウのページが紹介されていた。〈ぼくは北極に近い海で2000頭のなかまとくらしていたんだ。あのころは幸せだったなあ〉
つづいてドードー、〈のろますぎて絶滅〉。ギガントピテクスが〈パンダに負けて絶滅〉。文章もイラストも誤解を恐れず誇張が行き届いていて、楽しい。
丸山貴史、著。絵はサトウマサノリ、ウエタケヨーコ、海道建太、なすみそいため。監修に今泉忠明


恐竜が滅んだのは大隕石衝突による氷河期到来と、ざっくり理解していたけれど、肉食恐竜で最大クラスのスピノサウルスは〈川から出られなくて絶滅〉。なるほど。魚をたべる。背なかに帆がある。変温動物。巨大。
陸上で捕食するのはにがてで、「小さい恐竜とかが水飲みにこないかな〜」「おれたちが丸見えなのに、ノコノコ来るやついないっしょ……」。説明の〈陸上を歩いてほかの川に移動することがむずかしく〉にもうなづく。
どの章にも想像力をやしなうヒントがある。
先カンブリア時代末エディアカラ紀の、捕食することなく光合成などで生きていた種は〈目や口やヒレをもつハンターがあらわれると、食べつくされてしまった〉(ディッキンソニア)。おおきくいえば、そういうことだ。


アンモナイト三葉虫の多様な変異に触れた幼時、興味ぶかくも空恐ろしくかんじたものだ。これらの変異はかつて奇形と説明された。
ユニークであることにはリスクしかないようにおもえた。しかし何例も化石がみつかって、ランダムに発生したものでないとわかった。
アンモナイトのことをわすれて大人になったわけだけど、アンモナイトがずっと胸にのこっていても生きられるのかもしれない。
「異常巻き」だけが絶滅したのではない。みな絶滅したのだ。

刑事(成田浬)のばめん、演出がシュールで良かった。

ひらがなカードマジック ([バラエティ]) B機関『大山デブコの犯罪』観る。ザムザ阿佐ヶ谷
B機関を主宰するのは舞踏家・点滅。ゆえに舞踏パートは滅法良い。
点滅の腕や背なか、ほかの俳優の何名かもボディメイクを施されていて、これが現代的な意匠というか、ポップで繊細で、画家(吉澤舞子)に外注。
といったって、公演期間中毎日描くわけだから旅の一座に違いなく、「手品使い(魔法使いでもある)」には魔法つかいKOJI。
演出やひとあつめというのはふしぎなものだ。ことにテラヤマ的な「見世物小屋」というのはなにかがハッキリしていれば、プロの俳優である必要はない。B機関のキャスティングはみごとだった。
しかしそのぶん、アドリブには通俗的なところがあって、作品の虚構性をおびやかすようにおもえた。アドリブは、ただ風俗をとりこめばよく、半端な批評性は削がぬとテンポがわるくなる。


大山デブコは巨大な人形の頭と、ばめんによってさまざまな肢体をもっていた。これがおもしろかった。複数人で演じてみたり、一人でデブコになってみたり。
さいごに血肉を得たデブコが、雷鳴轟くなか四股を踏む。凄く良かった。そこから祝祭へと雪崩れこんでいく。物語を放棄して突如《劇》へと変貌する多幸と、ストップモーション。ああこれだ。これを観たくて近々にテラヤマ戯曲を上演するところをさがしていたのだった。


B機関のつぎの公演は「2019年 夏」だという。矢継早に作品が繰りだされる現代において、1年後とは、なんとまあ遠くのことか。

片桐はいりをサブカルに押しこめようとする力

片桐はいり4倍速

オムニバス4編。合わせて40分ほど。『片桐はいり4倍速』(2009)。

1本目の「受験生」は、蒲田在住の受験生が片桐はいりをときどき見かける話。

「あ、片桐はいりだ」

生活圏が一緒なのだ。だからどうということもない。地元でよく見る芸能人。そのためにリズムが生まれたり、何かしら切り替えられたりと。

ほか3作と比べると、ウェットなところがある。そこが好い。ちゃんとオチもある。

企画・原案、板尾創路。監督、中村竜也。受験生役に、太賀。とてもかわいい。

 

 

「スピリチュアル マイ ライフ」。監督・脚本の辛酸なめ子の感性と、片桐はいりの世界観がぴたりと合っている。

 

 

いかにもクリエイティブ系という趣の「ピーコちゃん」は、企画・脚本、赤松隆一郎。脚本・監督、江湖広二。

家族がでてくるけれども、子役の大江駿輔あどけなく、綺麗。

太賀も、大江駿輔も、スターダストだ。もちろん片桐はいりもスターダスト。

 

 

松尾スズキ監督・脚本の「部長」は、原作に『バカドリル』(天久聖一タナカカツキ)。