小説
男の話をきいていると、彼らはそれまでの人生で、たいてい一つ二つのまがり角というか、ムスビ目のコブをもっている。戦中派だと、たとえば、敗戦のショックとか、学生運動の挫折、なんてことをいう。 しかし女には、そんなものがない。 田辺聖子『女の長風…
伊藤比呂美の詩の朗読会に行ってきた。 その会を、詳しく説明すると、天童大人によるプロデュース「Projet La Voix des Poètes (詩人の聲)」というもので、特徴は、マイクを用いないこと。 さまざまな詩人を招いて月に5回、10回と精力的なペースで行なわれ…
日本近代文学館「声のライブラリー ─自作朗読と座談会─」行く。司会が伊藤比呂美で、先ずそれを目当てに。保険というか。そして伊藤比呂美がえらんだ朗読者ならばまちがいあるまいという期待。 行こうとおもっていて、だけどあれやこれやと落ち着かず、忙(…
観たことないのに映画の印象がつよくて、映画の公開時期にちかい短編集かとおもっていたら単行本1985年。田辺聖子の『ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)』。 ずいぶん昔のようだけど、『感傷旅行(センチメンタル・ジャーニィ)』を田辺聖子が書いてから『ジョ…
人は怖いものを見ると、それを避けようとして距離を取り、関わりを避けようとする。けれど、距離を取られてしまうと、本当に怖い演出を体験できなくなってしまう。 そこで思いついたのが、お客様に何かを持たせたり、何かの任務を与えるという方法だった。お…
語ることや演じることと、書くことは異なる。ドラマチックな熱に対する方法論のちがい。 キネマ旬報2003年1月から2005年3月までの書籍化。香川照之の文筆『日本魅録』。散文としては肩に力が入り過ぎ。どのようにこなれていくのか。続刊を追う。ひとの成長、…
『[asin:B00JPB7YL8:title]』。〈本書は2006年11月〜2007年6月の取材をもとに制作しています〉 小説といっしょでガイドブックもとうぜん古びる。情報は、古びたとしてもモノサシとして役に立つ。かならず断面であるからだ。 食べもののばあいは予算と、距離…
畑正憲『ムツゴロウの博物志 (続) (文春文庫)』。 おおきくなる話。 爬虫類が大きくなる可能性を絶えず持っているという学説は魅力的である。たまたま病気をまぬがれた大蛇が迷い出て、原子力潜水艦を丸呑みにしたら愉快である。 大きくならないのは、寄生虫…
〈私は科学者だから、動物のタタリを深く信じ、そして怖れおののき、妻が生死の境をさまよっているときには、動物の霊に祈った〉 畑正憲『ムツゴロウの博物志 (〔正〕) (文春文庫)』。 大学にはいって最初に出席した授業は、沼野井春雄教授の動物学であった…
『短歌の作り方、教えてください (角川ソフィア文庫)』のなかで穂村弘が「気持を守るために言葉を捨てなきゃいけないときがあって、でも自分が最初にこれは欲しいと思った要素を捨てるのって怖いんですよ」。
俵万智と一青窈の往復書簡『短歌の作り方、教えてください (角川ソフィア文庫)』。月刊『短歌』連載の、角川らしい盛りだくさんな作りで、穂村弘との吟行会、斉藤斎藤との題詠歌会も読める。 一青窈の歌「茶番劇」「どんでん返し」「今日わずらい」を俵万智…
畑正憲『ムツゴロウの素顔 (文春文庫)』。 〈商魂とか、売名とかいうのは、一体何であろうか。 売名をするなら、私はもっとましなところでするし、商売をするのなら、もっと利益のあがる方法をとる。私は文章を書いて暮す人間は、外れものだと思っているし、…
畑正憲『ムツゴロウの娘よ (文春文庫)』。〈娘に手紙を書く気持で綴ったのがこの本である〉──それは一つの方法であり、語りかけることでキザにもなるけれど、映画や、麻雀や、小説のことなど、畑正憲の世界観を一望できる一冊ともなる。 さてUFOというも…
畑正憲『われら動物みな兄弟 (角川文庫 緑 319-2)』。〈数年前、歌麿の展覧会をみたが、なかに子供に乳をふくませる母親の絵があった。その豊かな乳房のみずみずしい美しさは、百年の歳月を乗り越えて、観る者に迫ってきた。そこには、なま半可な科学はない…
アガサ・クリスティー『春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』。信頼できない語り手、病んだ語り手。
荒俣宏監修、『知識人99人の死に方 (角川文庫)』。特に紙幅を割かれているのは手塚治虫、有吉佐和子、永井荷風、澁澤龍彦、森茉莉、三島由紀夫、稲垣足穂、今西錦司、石川淳、寺山修司、深沢七郎、折口信夫。 この辺りはたとえば有吉佐和子について関川夏央…
塩野七生『男の肖像』。紹介されるのはペリクレス、アレクサンダー大王、大カトー、ユリウス・カエサル、北条時宗、織田信長、千利休、西郷隆盛、ナポレオン、フランツ・ヨゼフ一世、毛沢東、コシモ・デ・メディチ、マーカス・アグリッパ、チャーチル。 おお…
穂村弘『ラインマーカーズ―The Best of Homura Hiroshi』。いくつかの歌集(『シンジケート』『ドライ ドライ アイス』『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』)からと、ここまでに未収録の「蛸足配線」、書き下ろし「ラヴ・ハイウェイ」で出来ている。 …
早川良一郎『散歩が仕事 (文春文庫)』。オビと解説は江國香織。 この解説がみごとだ。〈大正生れの著者は戦争に行っている。従軍体験について書かれた幾つかのエッセイは、たとえば映画について、たとえば女性のお尻についてのエッセイと、平等な重さと手つ…
江國香織『こうばしい日々 (新潮文庫)』。収められているのは表題作と、「綿菓子」。 「こうばしい日々」の語り手は「十一歳になった」「僕」。 「綿菓子」の語り手は小学六年生の女子で「私」。 わかりやすくシンメトリーで、それを登場人物たちの性格にも…
マーク・セラシーニとアリス・アルフォンシ、夫婦合作の名義クレオ・コイルによる『事件の後はカプチーノ (コクと深みの名推理 2) (ランダムハウス講談社文庫)』。シリーズ2作目から読みはじめて、男女合作の視野の広さをかんじる。マンハッタンという舞台の…
恋愛が、どこかで生活や経済にむすびつく。あいてにそれをもとめなくても、あいてにそれをみとめないということはある。けっして精神的なものでは済まない恋愛。女性的な。 林芙美子「瀑布」。戦後、それも大都会の様相だ。〈文明的なものと原始的なものが、…
野田秀樹『ゼンダ城の虜・走れメルス―野田秀樹戯曲集 2 (角川文庫 (5662))』。
坂口安吾「夜長姫と耳男」。冒頭、もう凄い。 オレの親方はヒダ随一の名人とうたわれたタクミであったが、夜長の長者に招かれたのは、老病で死期の近づいた時だった。親方は身代りにオレをスイセンして、 「これはまだ二十の若者だが、小さいガキのころから…
野田秀樹『少年狩り 野田秀樹戯曲集1 野田秀樹戯曲集シリーズ (角川文庫)』。
近藤ようこ『夜長姫と耳男 (ビッグコミックススペシャル)』。「おまえはカンシャクもちのくせに小心者で、人の顔もまともに見ないやつだ。だがそれではダメだ。いいか! 珍しい人や物に出会った時は目をはなすな。オレの師匠がそういっていた。そして師匠は…